全キャストスタッフの映画にかける愛が詰まっている

――平波監督の演出はいかがでしたか?

平埜 面白かったです。こういう言い方をしていいのか分からないんですけど、平波監督はゆるキャラみたいな、ほんわかした優しい空気をまとっていらっしゃる方なんです。本読みのときも、僕がいっぱい質問しちゃったんですが、「まあ、そんな感じですよ」みたいな答えでした(笑)。でも、「これを撮りたい」というシーンは徹底的にこだわっていました。基本的に俳優から生まれた感情を大切にしてくださるんですが、ハイライトのシーンでは何度も話し合い、カメラマンさん以外のスタッフさんが現場に入れないような環境を整えてくださり、より俳優が納得のいくお芝居ができるよう寄り添ってくださったのはありがたかったです。

――ウエダ監督の印象はいかがでしたか。

松田 常に柔和なんですが、とてもクレバーな方です。衣装合わせのときに、僕がもっと話したいという空気を出していたら、ウエダ監督が察して、「この後、時間ありますか?お茶でも行きませんか」と誘ってくださいました。僕はお酒を飲んじゃったんですけどね(笑)。そのときに、いろいろな話をさせていただいて、冷静さと情熱を兼ね備えている方という印象でした。『3つのグノシエンヌ』には4人のメインキャラクターが登場しますが、現場ではそれぞれの俳優の個性を見てくれて、そこから生まれる化学反応を楽しんでくださっているのが伝わってきました。撮影中も意見を言わせていただいたんですが、核となる部分はウエダ監督のこだわりと情熱をしっかりと出してくださいました。クランクアップした後、ウエダ監督とメインキャラクターの4人が集まって、劇中に出てくる釣り堀にお邪魔したんですが、そこでもいろいろなお話をしました。俳優たちに寄り添って、一緒に作品を作っているという気持ちにさせてくれる監督ですね。

――完成した作品をご覧になって、どう感じましたか?

松田 撮っていたときは無我夢中とまでは言わないですけど、ウエダ監督含めて撮影スタッフの皆さんのおかげで、第三者の目を意識しつつも、役に没頭していました。だから完成した作品を観たときに、こういう仕上がりになるんだという驚きと発見がありました。江戸川乱歩と同じ気持ちにはなれないですが、それを体現する俳優として、時代を超えて、同じような気持ちになれたのかなと感じる瞬間もあって。社会的に見ると、狂気的に映るかもしれないけど、どんなふうに映画を観た皆様が受け取ってくれるのかに興味があります。

平埜 先ほどクランクイン前に悪夢を見るというお話をしましたが、クランクアップから映画が完成する間も、『蟲』の夢を見て、平波監督も出てきたんです(笑)。それで平波監督に連絡したら、「僕も『蟲』に取り憑かれていて、まだ編集作業も終わっていないのですが、絶対にいいものにするから」とお話していたんです。その言葉通り愛情の詰まった映画に仕上がっていますし、何より平波監督の映画にかける愛・熱量が凝縮されているなと感じました。全キャストスタッフの映画にかける愛が詰まっていて、この作品に出演できて本当によかったなと思いました。

見津 僕は覗く側の人間で、みなさんとは別々に撮影するシーンが多かったから、これがどう一つの作品につながっていくのか、脚本を読んでも、撮影の段階でも想像できなかったんです。一見すると、覗く側・覗かれる側の接触がない前半は地味に映るかもしれませんが、湖に行くことによって一変して、物語のターニングポイントになります。湖の画(え)が美しくて、いろんなことが救われたような感覚があったんですが、ちゃんと一つの作品としてまとまっていて感動しました。先ほどお話したリハを重ねたシーンは人それぞれ感じ方が違うなと思うのですが、完成した映画を観て、「これで良かったんだ」と納得のいくものになりました。

Information

『3つのグノシエンヌ』
2025年10月3日(金)よりシネマート新宿、池袋シネマ・ロサ他ロードショー

松田凌 安野澄 岩男海史 前迫莉亜
監督・脚本:ウエダアツシ
原案:「一人二役」江戸川乱歩

小劇場の売れない役者・哲郎(松田凌)と、教師として働く妻・晴(安野澄)との仲は冷え切っていた。愛人・茉莉(前迫莉亜)との逢瀬も、哲郎の欲望を満たすことはなかった。刺激に飢えた哲郎は、新たな舞台の脚本を進める中で、後輩役者・悠介(岩男海史)にある話を持ちかける。それは、舞台の主役に抜擢することと引き換えに、悠介が架空の人物「中川純平」になりすまし、晴を口説き落とすというものだった。哲郎はその様子を脚本のネタにしようとしていた。最初は気が進まなかった悠介だったが、晴と触れ合うにつれて芝居と現実の狭間で心が揺れ動いていく。一方で哲郎は、自分には見せない晴の素顔を見て激しく動揺するが……。

公式サイト

『蟲』
2025年10月17日(金)よりシネマート新宿、池袋シネマ・ロサ他ロードショー

平埜生成 佐藤里菜 木口健太 北原帆夏 / 山田キヌヲ
細川佳央 橋野純平 中山求一郎
監督・脚本:平波亘
原案:「蟲」江戸川乱歩

映画監督の柾木(平埜生成)は、親の遺産を食い潰しながら引きこもり続けて10年になる。極端に人との接触を嫌う柾木を気に掛ける大学時代からの友人・池内(木口健太)は、刺激を与えようと小劇場の舞台へと連れ出すが、柾木は居酒屋で酒をあおりながら厳しい論評を繰り返すばかりだった。しかし、そこに出演女優の芙蓉(佐藤里菜)が現れると、その反応が一変する。柾木の演技論を熱心に聞く芙蓉に心を動かされ、創作意欲が湧き出してきた柾木は、彼女を主役にした脚本を書き始める。その思いの空回りが、次第に狂気を孕んで、誰も想像だにしない歪んだ愛の物語を奏で始める。

公式サイト

『白昼夢』
2025年10月31日(金)よりシネマート新宿、池袋シネマ・ロサ他ロードショー

見津賢 上脇結友 宮田佳典
ほたる 佐々江天真 前田龍平 田川恵美子 小川沙羅 小野寛幸 大迫一平 清野雄介 / 川瀬陽太
監督:山城達郎
脚本:川崎龍太
原案:「白昼夢」「「湖畔亭事件」江戸川乱歩
塾講師の渡会(見津賢)には、誰にも言えないある病癖があった。それは、人前で決して見せることのない顔を覗き見たとき、この上ない快感を得る病癖というものだった。そんな渡会が住むマンションの階下に、真柄夫婦が引っ越して来たのは今年の春のことだった。渡会は、夫婦が住む部屋に覗き穴を作り、その生活を覗き見るのが日課となっていた。妻の華恵(上脇結友)は大学の准教授となり出世する一方で、夫の太郎(宮田佳典)は非常勤講師として働いているようだが、夫婦仲は悪くないようだった。しかしある日、渡会がいつものように覗き見る中で、華恵の知らなかった太郎の秘密が明らかになる。

公式サイト
Instagram
X

松田凌

1991年9月13日生まれ。兵庫県出身。アメリカ・ニューヨークでの公演も果たし、ブロードウェイからも好評を得た「『進撃の巨人』 -theMusical-」のリヴァイ役や「『チェリまほ The Musical』 ~30 歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい~」の安達清役など幅広い役をこなし、『追想ジャーニー リエナクト』や東映ムビ×ステ映画『仁義なき幕末 龍馬死闘篇』など映画でも主演作が続いている。

平埜生成

1993年2月17日生まれ。東京都出身。舞台、ドラマ、映画など多くの作品に出演し、2020年12月には井上ひさしの戯曲である、こまつ座「私はだれでしょう」にて謎の男・山田太郎役を演じ「十三夜会 令和二年十二月 月間賞助演賞」を受賞。NHK 連続テレビ小説『虎に翼』で伊藤沙莉が演じる主人公・寅子の同僚・汐見圭役を演じ話題を呼んだ。

見津賢

1996年3月6日生まれ。神奈川県出身。映画『衝動』『夜明けのすべて』やドラマ『闇バイト家族』で若手刑事・鵜木半蔵役、ショートドラマ『ぼくとぼくが好きな彼と、君と』ではルームシェアをする 3 人のひとりでモデルの眞島奇跡役、NHK 連続テレビ小説『虎に翼』では大庭家の長男・徹太役として出演するなど話題を呼ぶ。レギュラーで出演している、テレビ東京「推しが上司になりまして フルスロットル」が放送中。

PHOTOGRAPHER:HIROKAZU NISHIMURA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI