その場所を実際に歩いて、実感を得ることは役を作る上で大事なこと

――歌舞伎町が舞台のメインですが、リサーチなどはされましたか。

林 実は一度も行ったことがなかったので、マモルを演じるにあたって一人で夕方に行って、周辺をふらつきました。正直、怖かったですが(笑)。どんな街なんだろう、そこに生きているのはどんな人なのか。その場所を実際に歩いて、実感を得ることは役を作る上で大事なことだと思うんですよね。事件などに直面したわけではないんですけど、やってよかったなと思います。

――歌舞伎町の喧騒の中で躍動する姿が瑞々しかったです。

林 たとえば街中で大声を出すとか、普段の僕が歌舞伎町に行っても、こんなことは絶対にできないだろうなっていうことを、マモルになりきったからこそ純粋に楽しめました。

――マモルは痛めつけられるシーンも多かったです。

林 アクションの一つなので、いかに痛く見せるか、いかにかわいそうに見えるかというのが大事で、感情よりも、動きや型、表情などで見せることを意識しました。その後に気持ちが乗ってくるんです。

――痛みがひしひしと伝わる映画ですが、永田 琴監督の演出はいかがでしたか?

林 楽しく演出してもらいましたし、「マモルってこんな感じだよね」「こういうとき、こんな動きをしそうだよね」と二人で話し合いながらマモルという人物を作っていったんです。シリアスなシーンでは真剣に話し合いましたが、バイオレンス作品だからといって怖さなどに偏った演出になることはなかったですね。演じる側の気持ちを大切にしてくださる監督です。

――役者に任せるというよりも、一緒に作り上げていく感じだったんですね。

林 特に僕に関してはそうでした。

――永田監督について、林さんは「お母さんみたいでした」という公式コメントがありました。

林 難しいシーンのときに背中を叩いてくれたり、親身になって話を聞いてくれたり。撮影現場だけじゃなくて、普段から僕とコミュニケーションを取ろうとしてくださったんです。匠海君が僕のことを「裕太」って呼ぶのを聞いて、「じゃあ私も裕太にしよう」と言ってくれたのもうれしかったですね。

――初めて完成した作品を観た時の感想はいかがでしたか。

林 びっくりしました。マモルとタクヤのシーン、タクヤと梶谷のシーンでは質感が違うんですけど、ちゃんと地続きで温度感は一緒なんです。それぞれのシーンがつながっているんですけど、質感の分かれている部分が映画としての波、強弱を作っているような感じがして、すごく面白かったです。