何もできない自分だからこそ、いろんなことを吸収しようとした

――キャリアについてもお伺いします。大学では演劇コースを専攻されていたそうですね。

林 ずっとお芝居をやりたいと思っていたんですが、最初の一歩がなかなか踏み出せなくて。具体的な職業は思い浮かばなかったんですが、芸能とは違う世界に行く未来も考えていました。でも高校3年生で進路を決める時に、大学が高校の付属だったんですが、本気で自分のやりたいことを一回やってみようと思ったんです。演劇コースを選べば、それ以外の道に進む可能性を、良い意味で狭められると考えたんですよね。

――大学に入るまでお芝居の経験は?

林 全くなかったです。大学でもお芝居そのものを学んだわけではなくて、座学が中心でした。歌舞伎や狂言、ギリシャ演劇などの古典を勉強する専攻クラスだったので、正直、実技をやりたかった僕からしたら退屈で仕方なかったです(笑)。今思うと、ちゃんと受けておけばよかったと思いますけど、大学はサボらずに通って卒業しました。

――具体的に俳優を目指すきっかけは何だったんですか。

林 大学のクラスに、たまたま今所属している事務所の俳優がいたんです。櫻井健人なんですが、彼に役者の道について相談をした時に、養成所を紹介してもらって。それが今の事務所に入る最初の一歩でした。18歳の時ですね。

――初めてのお芝居はいかがでしたか。

林 自分は下手くそだなって思いました。でも、何もできない自分だからこそ、何のメソッドがないからこそ、いろんなことを吸収しようとしたんです。養成所の先生が教えてくれることを素直に受け入れる力は誰よりもあったと思います。

――中学時代は陸上をやっていたそうですね。

林 800メートルや1500メートルなど、主に中距離走をやっていました。全力の90%くらいで走り続けなきゃいけない競技なので、体以上に心が大事なんです。いかに我慢するか、みたいな。

――陸上の経験は演技にも生きていますか?

林 肉体面というよりも、精神面で生きています。常に辛いことと向き合う競技だったので、メンタルがタフになりました。撮影で辛いシーンに向き合う時も、陸上部の経験が支えになっています。

――今もトレーニングなどは続けているんですか。

林 体を動かすのが好きなので、一時期はジムで筋トレをしていた時期もあったんですが、鍛えすぎて顔と体が合ってなくて(笑)。今はギャップをなくすために筋トレをを控えて、ランニングを続けています。

――養成所にはどのくらい通われたんですか。

林 1年です。お芝居を始めて半年くらいで、今のマネージャーさんが声をかけてくれて事務所所属になったんです。所属後もお芝居の勉強は続けさせてもらえたので、仕事をやりつつ養成所にも通うという日々でした。

――事務所に所属したタイミングで、俳優一本でやっていこうと決めていたんですか?

林 所属できた時点で、「俺にはこれしか生きる道がない!」と思い込んでいました。何も怖がることなく飛び込んだんですが、今思うとリスク管理ができていないですよね(笑)。

――俳優としてキャリアを積んでいく中で、気持ちの面で何か変化はありましたか。

林 自分の感情の起伏に敏感になりましたし、誰かのことをちゃんと分かろうとする意識が芽生えました。今まで「どうして、この人はこんな行動するんだろう?よく分からないな」って、そのまま終わらせていたことを、もっと興味を持って、他人の気持ちを理解しようとするようになったんです。それが役を演じることに深くつながっているんだと、この仕事をやり始めて分かってきました。

――最後に改めて『愚か者の身分』の見どころを教えてください。

林 誰かに何かをしてあげたいという力って、すごく強いと思うんです。そのパワーは、してあげた人を救うだけじゃなく、自分自身も助けます。この映画を通して、誰かに働きかけることの大切さが観る人に伝わればいいなと思います。

Information

『愚か者の身分』
2025年10 月24日(金) 全国公開

北村匠海
林 裕太 山下美月 矢本悠馬 木南晴夏
綾野 剛

プロデューサー:森井 輝
監督:永田 琴
脚本:向井康介
原作:西尾 潤「愚か者の身分」(徳間文庫)
製作:映画「愚か者の身分」製作委員会
製作幹事:THE SEVEN
配給:THE SEVEN ショウゲート
©2025 映画「愚か者の身分」製作委員会

SNSで女性を装い、言葉巧みに身寄りのない男性たち相手に個人情報を引き出し、戸籍売買を日々行うタクヤ(北村匠海)とマモル(林裕太)。彼らは劣悪な環境で育ち、気が付けば闇バイトを行う組織の手先になっていた。闇ビジネスに手を染めているとはいえ、時にはバカ騒ぎもする二人は、ごく普通の若者であり、いつも一緒だった。タクヤは、闇ビジネスの世界に入るきっかけとなった兄貴的存在の梶谷(綾野剛)の手を借り、マモルと共にこの世界から抜け出そうとするが──。

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林 裕太

2000年11月2日生まれ。東京都出身。2020年に俳優デビュー。映画『草の響き』(21)やWEBドラマ『17.3 about a sex』(20/ABEMA)、WOWOW『ソロモンの偽証』(21)に出演。22年、『間借り屋の恋』で映画初主演を飾る、以降、映画『少女は卒業しない』『逃げきれた夢』『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』『緑のざわめき』『ロストサマー』(23)、『ブルーイマジン』『HAPPYEND』『オアシス』(24)、テレビドラマ『御上先生』(25/TBS)『なんで私が神説教』(25/日本テレビ)など数多くの作品に出演。

PHOTOGRAPHER:HIROKAZU NISHIMURA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI,HAIR&MAKE:MARIKO SASAKI,STYLIST:Kyu Hokari