東京は「住んでいる場所」というよりも「出てきている場所」

――映画『見はらし世代』は、どのようにオファーがあったのでしょうか。

木竜麻生(以下、木竜) 団塚唯我監督とは面識がなかったんですが、ポンと連絡をいただきました。まだ出演を決める前に、渋谷のカフェで会ってお話しする時間を取ってくださったんですが、幾つか私の出演作を観ていただいていて、中でも『鈴木家の嘘』(18)は、『見はらし世代』と同じく家族のお話で、同じ長女という役柄だったので、重ね合わせたのかもしれません。あと偶然、代官山で私を見かけたことがあったらしくて、そのときに私が緊張して歩いていたそうなんです(笑)。それは現場に入ってから教えていただいたんですが、一人で歩いているのに緊張しているみたいな様が面白かったみたいで、それが気になったのもあって声をかけてくださったとお聞きしました。

――団塚監督は本作が長編デビュー作ですが、演出はいかがでしたか?

木竜 監督として譲らない部分がありながら、とても柔軟な方だなと思いました。思いつきで「こうしてほしい」「ああしてほしい」ということをほぼ言わないんです。段取りをつけたら役者さんに任せるし、段取りの段階でも一緒に考えて進めていくんですよね。ご自身で書いたオリジナルの脚本なのに、たとえば私が演じた恵美のセリフについて、「気づいたらこういうことを恵美が言っていたんですが、どんな感じなんですかね?」と、まるで誰かが書いた脚本の話をするみたいに聞いてくるんです。私と同じ目線で恵美を見ているんですよね。だから私が迷っていることや悩んでいることも相談しやすかったです。ちゃんと監督とコミュニケーションを取りながら、一つずつ丁寧にシーンを作っていくことができました。

――バラバラになった家族が、お互いの距離を見詰めなおすストーリーですが、初めて脚本を読んだときは、どんな感想を抱きましたか。

木竜 出てくる人物全員が魅力的に描かれていて、お父さん、お母さん、弟、お姉ちゃん、どの人の立場になっても、どの気持ちも分かるなと思えました。それぞれに目線を合わせると、心の動きや葛藤、後悔みたいなものが理解できるんですよね。家族って普遍的でありながら、人によって距離感が全然違うものだと思いますが、この家族の距離感は素直に受け入れられました。

――主演を務めた黒崎煌代さんの印象はいかがでしたか。

木竜 黒崎くんは団塚監督とお付き合いが長いのもあって、密に言葉を交わさなくても、分かりあっているんですよね。団塚監督が「まあ、いい感じにやって」と言ったら、黒崎くんも「分かりました」みたいな(笑)。二人に迷いがないので、私としても心強かったですし、黒崎君の演じた恵美の弟・蓮に対しても素直な反応ができました。

――完成した作品を観て、どのように感じましたか。

木竜 団塚監督の眼差しに、あまりフィルターをかけない状態で撮っているというか。一定の距離感を保ったまま家族を見ているような印象を受けました。そのフラットな感じが、この映画にとって適切な距離なんだろうな。それが団塚監督の作る作品の面白さなのかもしれないですね。

――再開発が進む東京・渋谷を舞台にしていますが、木竜さんは渋谷という街にどのような思いをお持ちですか?

木竜 私は10年ちょっと東京に住んでいますが、新潟県出身ですし、家族もみんな地元にいます。だから、渋谷が変わっていくことに対して「すごく変わったなあ」「またここ工事なんだ」という思いはあっても、昔の渋谷で多感な時期を過ごしていた人のようにノスタルジックに変化を見るというよりは、どこか自分は東京に対して、「住んでいる場所」というよりも、「出てきている場所」という感覚が強いんです。