『秒速5センチメートル』は愛の伝わる映画

――『見はらし世代』と同じ日に公開が始まった映画『秒速5センチメートル』にも出演されています。新海誠監督の劇場アニメーションの実写化ですが、どういう理由でキャスティングされたかは聞きましたか?

木竜 奥山由之監督と脚本の鈴木史子さんが私の主演映画『わたし達はおとな』(22)を観てくださっていて、キャスティングについて話しているときに、「あの映画の木竜さん良かったよね」というお話になって、水野理紗に合うんじゃないかということで声をかけてくださったそうです。

――水野理紗というキャラクターをどのように捉えて演じられましたか?

木竜 松村北斗さんが演じる現在の遠野(貴樹)さんを浮き上がらせるときに理紗は重要で。遠野さんにとっての理紗は面倒くさくなくて、ある範囲から踏み込まないということができる。「ここからは入っちゃいけない領域なんだ」ということを、無自覚なのか意識的にかは分からないけれど察知できる、ちゃんとそれを回避できる人だなと思ったので、そこは意識しました。ただ、それでも彼女の中で違和感や思っていることがあるので、それを出し過ぎず、でも見えなさ過ぎないように、塩梅を考えながら表現しました。

――家にいるシーンと会社でのシーンでは雰囲気を変えられていますね。

木竜 事前に鈴木さんと話したときに、「理紗はものすごく自分の経験や現状にとらわれている訳ではないけど、ちょっと思っていることもある」という割と細かいところを共有してくださって。遠野さんと家にいるときや話しているときは、ちゃんと二人には付き合っている期間があるんだということが分かるようにしたいなと思っていました。かと言って会社での理紗からは離れない程度に、ちゃんと遠野さんといる理紗というのが成立するように考えながら演じました。

――撮影現場の雰囲気はいかがでしたか。

木竜 事前に遠野さんの高校時代を描いた種子島パートの映像を共有してくださっていたんですが、映像美が素晴らしいのはもちろん、原作の持つ世界観の淡さや不確定な部分。そういった煌めきのある刹那の時間というものを、奥山監督も撮影部の皆さんも捉えようとしているのを感じていました。私は会社のシーンからクランクインだったのですが、それと対比するように青っぽい色調で温度を下げたいというお話もされていて、映画全体で表現しようとしているものが、お話からも現場の作り方、場所の選び方からも伝わってきました。

――撮影現場で役に対してのヒントを得る部分もありましたか?

木竜 撮影の合間も美術の中で過ごしていたんですが、衣装もそうですけど、空間や小道具から、理紗の家はこんな感じなんだというヒントをもらいました。演じるのが人である以上、生活というものがあるから、どんな本を置いているのか、どういうものを好んでいるのか、そういうところを見ながら理紗を作りあげていきました。

――現代のパートは2008~2009年が描かれていますが、当時の空気感を見事に再現していますよね。

木竜 遠野さんと理紗が一緒にいるシーンは新宿が多くて、本屋さんも新宿の紀伊國屋書店さんですし、最後のほうで二人がやり取りするシーンも新宿で撮影しました。当時の空気感を出すために、その当時の物を用意したり、タクシーも当時走っていた車両を使ったり、時代考証には気を使っていたと思います。

――松村さんとの共演はいかがでしたか?

木竜 松村さんの主演映画『夜明けのすべて』(24)が大好きで、映画館に2回観に行きました。もともと三宅唱監督の作品も好きですが、松村さんのお芝居が素敵で、ご一緒できるのはうれしかったです。お芝居をしているときも、やっぱり素敵な俳優さんだなと感じていました。普段からバラエティーに出られている姿も見ていたので、SixTONESのメンバーの皆さんといらっしゃる無邪気な松村さんも知っていました。「あの番組面白かったです」という雑談も気軽にさせていただいたので、松村さんとのシーンは安心して演じることができました。

――奥山監督の演出で印象的だったことは?

木竜 準備が整って現場に入ったら、最初に他のスタッフさんがいない状態で、俳優と奥山監督だけの時間があるんです。スタッフさんは俳優から見えない位置に隠れてくださるんですよ。その中でやった段取りを、スタッフさんも交えて、もう一度やるんです。できるだけ人に見られていない状態でのお芝居を見たいということでした。どのシーンも毎回それをやってくださって、今まで経験したことがない現場でしたし、面白かったです。

――完成した映画をご覧になった感想をお聞かせください。

木竜 まず奥山監督とチームの皆さん、奥山組に関わったみんなが、原作と今回の映画作品に対してものすごく誠実に向き合っていることが終始感じられる映画でした。監督の人柄が、ちゃんと出る映画は素晴らしいと思いますし、全員が同じ船に乗ったからこそ、それがにじみ出たんだなと思いました。『秒速5センチメートル』という作品が持つ、ずっと胸の中に残るものの大切さや大きさみたいなものを、みんなが表現しようというところに注力していて、愛の伝わる映画だなと思いました。