少しずつ俳優でやっていこうという気持ちを固めていった

――キャリアについてもお伺いします。木竜さんは地元・新潟にいた頃から芸能活動を始めていますが、俳優デビューは2014年の映画『まほろ駅前狂騒曲』ですよね。

木竜 大学進学で上京してから、ちゃんとオーディションに行かせていただいたり、現場を見学させていただいたりするようになりました。ただ、上京当時は「これを仕事にする」という明確なものがあった訳ではなくて、大学生活も大切にしていました。事務所の方も、私の意志を尊重してくれて、大学の合間にいろんなお仕事をいただきながら、少しずつ俳優でやっていこうという気持ちを固めていきました。

――大学は文学部で近代文学を学んでいたそうですね。

木竜 文学部を専攻した理由は、すごく単純なんですけど、授業の中で国語が一番好きだったからです。教科書に小説や詩などが、たくさん収録されているじゃないですか。それを授業に先行して読んでいくうちに読書が好きになって。大学を決めるときに、就職に強いものというよりは、自分の好きなものがいいなと思って文学部に決めました。大学に入ってから、より読書は好きになりましたね。本屋さんで買う書籍や文庫が、そのまま教科書になりますからね。あと詩が大好きな子と仲良くなって、共通の話ができるのも大きかったです。

――詩人では茨木のり子、室生犀星、工藤直子、谷川俊太郎がお好きだそうですが、好きな小説家はいらっしゃいますか?

木竜 一人の作家さんを掘り下げて読むタイプで、吉本ばななさんや千早茜さんが好きです。小川洋子さん、川上未映子さん、山内マリコさんも愛読しています。今話しながら気づいたんですが、女性作家の方が多いですね。

――木竜さん自身、ノートにメモを書く習慣があるんですよね。

木竜 学生時代からノートを書くこと、何かをまとめる作業が、無心になれるから好きだったんです。このお仕事は教科書がない世界ですし、観た映画やドラマ、日常に起こったことなど全て活かせるので、最初は好きなもの探しみたいな気持ちで書き始めました。今は写経みたいな気持ちで、心を落ち着けるために書いているところもあります。気になった文章をスクショしたり、写真に撮ったりしておいて、すっきりしたいときに出して、一気にノートに書いていくんです。

――そのノートは普段から持ち歩いているんですか。

木竜 現場があるときは、カバンの中に台本と一緒に入れています。必ず開く訳ではないんですが、自分の好きなものがここにあると思うと安心するんですよね。疲れているときや、頭がごちゃごちゃになったときに見返します。

――そのノートは何冊ぐらい書いたんですか?

木竜 今で4冊目です。たまに前のノートも読み返して面白いのは、重複して書いている文章があることに気づくんです。それで、やっぱり私は、この表現が好きなんだと再確認できるんです。

――俳優デビューして、11年目になります。今回の映画も放映中のドラマ『いつか、無重力の宙で』も木竜さんにとって新たなチャレンジだったかと思います。

木竜 たぶん私の歩みは他の人よりもゆっくりなんです。事務所の方とたくさんお話をして、自分がやりたいと思った作品のオーディションを受けて。自分のペースでやらせていただいているので、いまだに見たことないもの、やったことのないものがたくさんあって。基本的に「こんな作品はやりたくない」というのはあまりないほうなんですが、「この木竜さんを見てみたいです。一緒にやりましょう」と言っていただく方から、面白がってもらえるお芝居をしたいなと考えることはあります。そうやって皆さんにベットしてもらえる自分になれたら、面白いなと思いますね。「木竜を使ってみようか。ちょっとつついてみようか。ドアを開けてみようか」と思ってもらえる俳優になりたいと思いますし、まだまだ見えてないところや開いてないドアが自分の中にいっぱいあると信じて、やっていきたいです。

Information

映画『見はらし世代』
好評全国ロードショー中

黒崎煌代
遠藤憲一
木竜麻生 菊池亜希子
中山慎悟 吉岡睦雄 蘇鈺淳 服部樹咲 石田莉子 荒生凛太郎
中村蒼/井川遥

監督・脚本:団塚唯我
🄫2025「見はらし世代」製作委員会

再開発が進む東京・渋谷で胡蝶蘭の配送運転手として働く青年、蓮。ある日、蓮は配達中に父と数年ぶりに再会する。姉・恵美にそのことを話すが、恵美は一見すると我関せずといった様子で黙々と自分の結婚の準備を進めている。母を失って以来、姉弟と父は疎遠になっていたのだ。悶々と日々を過ごしていた蓮だったが、彼はもう一度家族の距離を測り直そうとする。変わりゆく街並みを見つめながら、家族にとって、最後の一夜が始まる。

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映画『秒速5センチメートル』
好評全国ロードショー中

松村北斗 高畑充希
森七菜 青木柚 木竜麻生 上田悠斗 白山乃愛
岡部たかし 中田青渚 田村健太郎 戸塚純貴 蓮見翔
又吉直樹 堀内敬子 佐藤緋美 白本彩奈
宮﨑あおい 吉岡秀隆

原作:新海誠
監督:奥山由之
脚本:鈴木史子
音楽:江﨑文武
🄫「秒速5センチメートル」製作委員会

1991年、春。東京の小学校で出会った貴樹と明里は、互いの孤独にそっと手を差し伸べるようにして、少しずつ心を通わせていった。しかし、卒業と同時に、明里は引っ越してしまう。離れてからも、文通を重ねる二人。相手の言葉に触れるたび、たしかにつながっていると感じられた。中学一年の冬。吹雪の夜、栃木・岩舟で再会を果たした二人は、雪の中に立つ一本の桜の木の下で、最後の約束を交わす。「2009年3月26日、またここで会おう」。時は流れ、2008年。東京で働く貴樹は、人と深く関わらず、閉じた日々を送っていた。30歳を前にして、自分の一部が、遠い時間に取り残されたままだと気づきはじめる。そんな時にふと胸に浮かぶのは、色褪せない風景と、約束の日の予感。明里もまた、あの頃の想い出と共に、静かに日常を生きていた。18年という時を、異なる速さで歩んだ二人が、ひとつの記憶の場所へと向かっていく。交わらなかった運命の先に、二人を隔てる距離と時間に、今も静かに漂うあの時の言葉。――いつか、どこかで、あの人に届くことを願うように。大切な人との巡り合わせを描いた、淡く、静かな、約束の物語。

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木竜麻生

1994年7月1日生まれ。新潟県出身。14歳の時に原宿でスカウトされ、大学進学を機に上京。本格的に芸能活動を始める。2014年、『まほろ駅前狂騒曲』で映画デビュー。2018年公開映画『菊とギロチン』と『鈴木家の嘘』の演技が評価され、毎日映画コンクール スポニチグランプリ新人賞やキネマ旬報ベスト・テン新人女優賞など数々の映画新人賞を受賞する。主演映画『わたし達はおとな』では北京国際映画祭フォーワードフューチャー部門にて最優秀女優賞を受賞。最近の出演作品は『福田村事件』『熱のあとに』『かくしごと』などがある。 放映中のNHK夜ドラ「「いつか、無重力の宙で」で主演を務める。

PHOTOGRAPHER:HIROKAZU NISHIMURA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI