バンジージャンプのように、自分の節目に身を投じるにふさわしい作品

――『蒲田行進曲』の時の客層は、どのぐらいの世代が多い印象でしたか。

小澤 やっぱり年配の方が多かったんじゃないですかね。今回も同じ紀伊國屋ホールですが、劇場についているファンの方たちもいらっしゃいますし、その方々がどういう評価をしてくれるかが僕たちの生きがいにつながります。ちゃんと、つかこうへいの魂を受け継いでいるよねと思っていただければ正解ですし、セリフや格好などは演出家に全部任せて、どれだけ僕たち役者はすっぽんぽんになって勝負できるかどうか。全部脱ぐつもりで行かないと、お客さんの期待に追いつかないんじゃないかなという危機感もあります。

――日比さんは、『蒲田行進曲』の時のお客さんの反応で印象的だったことはありますか。

日比 毎公演、いただく反応の箇所が違って、すごく面白かったです。そもそも台本が面白いから、セリフを言っただけでお客さんが笑ってくれる感覚が新鮮で、つか作品がクセになる理由の一端が分かりました。でも私は必死すぎて、役を掴み切れなかったと思う瞬間もあったので、今回はたくさん得られるものを増やしたいなと思います。

――それぞれ今回の脚本を読んだ印象をお聞かせください。

小澤 『熱海殺人事件』は何回読んでも無茶苦茶なんですよね(笑)。動機も分からなければ、問題に対する解決策の筋も通っていない。でもそれを押し切ってしまう説得力がある。会話を通して緻密に描かれているもの、そして言葉だけじゃないところでも、人ってここまで考え方が変わるのかという人物の変化が秀逸に描かれている。訳が分からない作品なのに、最後には「すごかった」「面白かった」と思えるんですよね。

日比 『ストリッパー物語』は、ストリッパーの明美と、そのヒモのシゲの愛の物語ですが、湿っぽいお話ではなく、エネルギッシュな中にも切なさを感じました。とにかく熱量がすごくて、明美を演じきれるのかという不安もありますが、皆さんと稽古を重ねて素晴らしい舞台を作っていきたいです。

――本公演で楽しみにしていることを教えてください。

日比 打ち上げですかね(笑)。稽古終わりもそうなんですが、みんなでお酒を飲んでしゃべって、「また明日」という時間が大好きなんです。

小澤 僕が一番楽しみにしているのは、先ほどもチラッと話しましたが自分がどうなるかです。今回、バンジージャンプのように、自分の節目に身を投じるにふさわしい作品だなと思っていて。僕自身が何を考えるかというよりは、限界まで挑戦するとどうなるんだろうか。この作品を経験した上で、まだ芝居をやりたいかどうかに興味があるんです。今までLDHというアスリートチックな事務所でストイックにやってきましたが、自分がやりたいことのために頑張るという感覚で、芝居がどういうものかという追求はあまりしてこなかったんです。でも今回は、『熱海殺人事件』というものすごい本にぶち当たったって、これを自分の体に入れた後、どういう気持ちになっているのか。それは今の僕には分かり得ないこと。だから楽しみにしているのは終わった後の自分ですね。後のことは考えずに、荒海に飛び込むつもりで、全力で行きたいです。

Information

紀伊國屋書店提携公演
たやのりょう一座 第14回公演
一座二部作
『熱海殺人事件』『ストリッパー物語』

日程:2025年11月1日(土)〜11月9日(日)
場所:紀伊國屋ホール

作:つかこうへい
演出:こぐれ修(劇団☆新感線)

出演
『熱海殺人事件』
小澤雄太(劇団EXILE)
松川尚瑠輝
小池里奈
田谷野亮

『ストリッパー物語』
日比美思
田谷野亮
滝澤エリカ
大川泰雅
八条院蔵人
永井彩加
門松順

なだぎ武

公式サイト
Instagram
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小澤雄太

1985年10月8日生まれ。東京都出身。2009年、「第1回劇団EXILEオーディション」に合格し、同劇団のメンバーに。数多くの舞台に出演する一方で、映画、ドラマでも活躍。「もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう」(フジテレビ)に出演中。来年には三谷幸喜新作ミュージカル『新宿発8時15分』に出演予定。

日比美思

1998年9月20日生まれ。神奈川県出身。2009年、『天才てれびくんMAX』(NHK教育、現Eテレ)の全国オーディションに合格。同年、ダンスヴォーカルグループ「Dream5」のメインボーカルとしてデビュー。2016年にグループ活動終了後、俳優として活動を始める。2017年7月、『マジで航海してます。』にてテレビドラマ初出演。主な舞台出演に『陽だまりの樹』(21)、『点滅する女』(23)、『蒲田行進曲』(24)など。

PHOTOGRAPHER:HIROKAZU NISHIMURA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI,HAIR&MAKE:AYA IWASAWA,STYLIST:SHOTA HUNAHASHI