映画のぎんはその時代の女性の象徴で、舞台のぎんは現代の女性の象徴

――お二人は今回が初共演とのことですが、それまでどんなイメージを抱いていましたか。

岡田結実(以下、岡田) AKB48時代からテレビで拝見していましたし、横山さん出演の舞台を拝見したこともあって。クールビューティーというイメージを思い描いていたのですが、実際の横山さんは良い意味で全く違っていて。どんな横山さんがいるのかなって探るのが楽しい毎日です。

横山由依(以下、横山) 岡田さんはバラエティで活躍されている印象が強かったので、明るくて元気な方だろうなと思っていたら、本当にそのまんまでした(笑)。

――Wキャストということで、稽古も一緒とお聞きしましたが、岡田さんは今回が初舞台となります。

岡田 私がこう描きたいなと考えている“ぎん”を、横山さんが演じていらっしゃるのを見て、「それなんだよね!」と思うことが多いです。立ち姿、所作、言葉遣いなど、横山さんのお芝居を見ながら、できるだけ吸収するようにしています。逆に「うわ、悔しい!」と思うこともありますが、前向きに取り組めています。

横山 私もWキャスト自体は初めてなんです。舞台によっては、Wキャストそれぞれが別の日に稽古をやることもあると聞いていますが、今回は一緒の稽古場にいるということで、ぎんを俯瞰で見られるところがあって。岡田さんはこういう表現をするんだという刺激にもなりますし、勉強になります。演出の深作健太さんが、「Wキャストだけど、意識して同じようにしなくてもいいよ」と言ってくださったので、自分らしくていいんだというのがありがたいです。

――稽古はどんな流れで進めているんですか。

横山 基本的に私が最初にやらせてもらってから、動きなどを決めていって、岡田さんもやってみて、そこで良かった動きをブラッシュアップしてくださって、きっかけや決まり事を決めつつ進めています。

――お二人は混乱しないんですか。

岡田 深作さんが一緒にしなくていいと言ってくださって、それぞれのぎんでやっているので、私たちよりも主演の北山宏光さんのほうが混乱するかもしれません。たとえば椅子1個を出す仕草もタイミングも、私と横山さんでは違います。そうした一つひとつの行動に対して、臨機応変に受けるのは大変だと思います。

――舞台の元になっている映画『醉いどれ天使』を観た時は、どんな感想を持ちましたか。

岡田 三船さんが演じられる松永はかっこいいですよね。ヤクザって今の時代は敬遠されるものですけど、映画の中での松永は魅力的でした。立ち稽古が始まったら、北山さんが演じる松永も魅力的で、三船さんとは違った良さがあるなと思いました。

横山 昔の作品と聞いて話に入り込みづらいのかなと思ったんですが、いつの時代でも色あせない魅力のある映画だなと思いました。もちろん戦後すぐという時代背景なので、現代を生きる私たちとは取り巻く環境も違いますが、根底にある悩み事や何かに対しての怒りみたいなものは変わらないんだなと思いました。みんなそうやって戦いながら、先祖代々つながっているんだなと感じましたね。

岡田 役者さんたちの重厚感も違いますよね。

横山 特に三船さんは「まんま松永さんやん!」という説得力がありますよね。

岡田 戦中、戦後を実際に生きている方々だからこそ出せるリアルなのかなと思いました。

横山 闇市の水たまりがブクブクと泡立つシーンがあって、どうやって撮ったんだろうと。今だったら技術でどうとでもなりますが、ああいう描写も生々しくて、ドキュメンタリーを観ているような感覚になりました。

――舞台版のぎんは松永と同郷の幼馴染ですが、映画版は出身地が違っていて、たまたま東京で知り合った松永に惹かれていきます。

横山 映画版のぎんは印象に残りづらいというか、内面が分からないので冷たい印象を受けました。映画と合わせて舞台の台本を読ませてもらった時に、ぎんが深く掘り下げられているし、ぎんの思いの強さが松永に影響してくるという部分も大きくて。映画に引っ張られすぎなくていいという安心感もありましたし、ぎんを演じることにワクワクしました。

岡田 正直、映画版のぎんを観た時は嫌悪感がありました。松永を説得して、田舎に帰ろうと説得するシーンの時に、時代背景として男尊女卑的なものを感じたんです。今の感覚で観ると、「そんなにへりくだらなくていいじゃん」と思ったんですよね。ただ舞台版の台本を読むと、どちらかという松永を引っ張って、変わってほしいと訴え続けていく力強いぎんがいました。映画のぎんはその時代の女性の象徴で、舞台のぎんは現代の女性の象徴でもあるのかなと感じました。