北山宏光さんはストイックでプロ意識の高い方

――北山さんの印象はいかがですか。

岡田 テレビで見ていて、すごくプロ意識の高い方なんだろうなという印象がありました。稽古場に入ると、もちろんプロ意識も高いし、北山さんの中の松永像を初日から作り上げていて、立ち稽古の時にはもう松永だったんです。その上で、深作さんにリクエストされたことに真摯に取り組む姿や、自分の中のこれは譲れないというプライドみたいなものが垣間見えるところが、アーティストとしても、役者としても、北山さんのプロフェッショナルな姿勢が見られて、座長として信頼のおける方という印象です。

横山 本当にストイックな方ですね。役に向き合う姿勢がしっかりされていて、自分の中に確固たる松永像がある。自分の思っている松永はこういうことをしないんじゃないか、自分の演じる松永ならこう動くんじゃないかという提案を、積極的に深作さんにお話しされているんです。その前のめりな姿勢をキャスト全員が見ていて、舞台をより良いものにしたいという熱い思いを感じますし、素敵な座長だなと思います。

――松永はクールにかっこよくすればいいだけではなく、弱さも内包している繊細なキャラクターです。

横山 クライマックスはかわいく見えてきます。

――母性みたいなものが働くのでしょうか。

横山 そうです。

岡田 捨てられた子犬みたいな。

横山 それを感じさせるのは、北山さんの中で積み重ねてきたものがあるからだと思います。あと当然ですがダンスもすごいです。

岡田 私からしたら皆さんダンスは素晴らしいですが、振り付けにそれぞれの性格が表れているのかなと思っていて、たとえば奈々江は妖艶なダンスですよね。

横山 情熱的に踊るんですよね。あとお芝居以外のところで言うと、北山さんは頻繁に飲み物を飲んでいる印象です。私自身、飲み物が大好きで、稽古場でもちょこちょこ飲むんですけど、それ以上に北山さんは飲んでいるんですよ!おそらくお茶が好きで、各メーカーのお茶を飲んでいて。

岡田 昨日、横山さんが初めて飲むアップルジャスミンティーを買ってきたら、たまたま北山さんも同じものを買ってきていましたよね。

横山 そうそう。北山さんも気づいて、「これ、美味しいですよね」という話になって。

岡田 あと深作さんはお茶目なことを言うのが好きで、みんな笑って、「ワハハ~」みたいな感じで終わるんですけど、それに対して北山さんは小声でボケているんですよ。

横山 いつも小声で何か言っていますよね。

岡田 私がボケているなと思って笑っていたら、北山さんは「フフフ」って言いながら去っていくんです。チャーミングな方ですよね。

横山 それが独り言なのかも分からない(笑)。

岡田 ツッコんでほしいのかどうかも分からないんですが、一回くらいはツッコんでみたいです(笑)。

――深作さんの演出はいかがですか。

横山 丁寧な方ですね。本読みの時に、「この戦争が何年に終わって」と授業みたいな形式で、時代背景も含めて細かく説明をしてくれました。普通だったら自分たちで設定を深めていくんですけど、役と役の関係性や、年齢をどうするかなどを、みんなで共有しながら作ってくれたので、共通認識で分かっていることが多くて、それがキャラクター作りに役立っています。稽古中もそういう話をしてくれて、台本にない裏の気持ちなどヒントを与えてくださるんです。

岡田 ヒントをくださらない方もいらっしゃるんですか?

横山 人によりますね。

岡田 もともと私は今回の脚本を手掛けた蓬莱竜太さんの舞台が好きで。蓬莱さんの色に深作さんの演出が加わることで、良い意味で深作さんの色味に変わっているなと感じます。一日稽古に行かなかっただけで、「あれ?私の知っている舞台じゃない」と感じるくらい日々変化していくんです。深作さんの中では、はっきりと見えている世界があるのが伝わってきます。

――東京以外にも愛知と大阪での公演がありますが、岡田さんにとって出身地の大阪公演は感慨深いのではないでしょうか。

岡田 大阪に住んでいるおばあちゃんが観に来てくれるので、最高のおばあちゃん孝行にしたいです。そうやって生の芝居を届けられるのは、一世一代の挑戦だなと思っています。

横山 舞台が初めてということは、お客さんの前でお芝居するのも初めてですか?

岡田 子役の時に出演していた『天才てれびくん』で、お遊戯会みたいな舞台は数回あったんですが、ちゃんとしたお芝居は初めてです。

横山 緊張はしますか?

岡田 すると思います。 座席にいる人も、ちゃんと見えるものなんですか?

横山 照明によっては見えるはずです。

岡田 余計に緊張します。しかも今回は深作さんの演出で、「お客さんをめっちゃ見てください」と言われていますからね。横山さんも舞台に出始めた頃は緊張しましたか?

横山 私はスタートがキャパ250人のAKB48劇場なので、お客さんの前に出ることに緊張することはなかったです。ただ岡田さんが初めての舞台でどう感じるのかを考えると、今から私もドキドキします(笑)。

Information

『醉いどれ天使』

原作:黒澤明 植草圭之助
脚本:蓬莱竜太
演出:深作健太

出演 北山宏光
  渡辺 大 横山由依・岡田結実(Wキャスト) 阪口珠美 / 佐藤仁美 大鶴義丹

【東京公演】
公演日程:2025年11月7日(金)~23日(日)
会場:明治座

【名古屋公演】
公演日時:2025年11月28日(金)~30日(日)
会場:御園座
※Wキャストは横山由依のみ出演

【大阪公演】
公演日:2025年12月5日(金)~14日(日)
会場:新歌舞伎座

当たり前のように存在していたすべてが失われた、敗戦後の東京。戦争で帰る場所を失った人々は、荒れ果てた都市に流れ着き、闇市でその日その日を生き延びていた。ある夜、銃創の手当てを受けに、闇市の顔役・松永(北山宏光)が真田(渡辺 大)の診療所を訪れる。真田は闇市の界隈に住む人々を診る町医者で、酒に溺れ口は悪いが、心根は優しく一流の腕の持ち主。顔色が悪く咳込む松永を、診療所に住み込みで働く美代(佐藤仁美)も心配する。一目見て肺病に侵されていると判断した真田は治療を勧めるが、松永は言うことを聞かずに診療所を飛び出し、闇市の様子を見回るのだった。居酒屋で働く同郷の幼馴染・ぎん(横山由依・岡田結実)は、そんな松永を心配しつつも、密かに想いを寄せるようになっていた。しかし、着々と病魔が松永を蝕み、ダンサーの奈々江(阪口珠美)は彼から離れていく。戦後の混乱の中、松永の采配によって落ち着きを保っていた闇市だったが、松永の兄貴分・岡田(大鶴義丹)が出所し、闇の世界の力関係に変化が起きていくのであった……。

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横山由依

1992年12月8日生まれ 京都府出身。2009年にAKB48の9期生オーディションに合格後、15年12月から19年3月までAKB48グループの2代目総監督を務めるなどグループの中心として活躍。21年にグループを卒業後、舞台・ドラマ・バラエティ番組など活動の幅を広げている。近年の出演作に、【舞台】『Lovely wife』(25)、『カルメン故郷に帰る』『ハザカイキ』(24)、【映画】『IF I STAY OUT OF LIFE…? Part I「HANARERARENAI」』(22)、『空母いぶき』(19)、【ドラマ】『レプリカ 元妻の復讐』(25・TX)、『ペットドクター花咲万太郎の事件カルテ2〜お隣さんは殺人犯!?〜』(23・BS-TBS)などがある。

岡田結実

2000年4月15日生まれ、大阪府出身。01年、1歳でジュニアモデルとしてデビュー。14年に第22回ピチレモンオーディションでグランプリ受賞。バラエティ番組や情報番組で活躍し、17年に映画『傷だらけの悪魔』で俳優デビュー。以降、ドラマや映画に多数出演。近年の主な出演作品に【映画】『ウラギリ』、『26時13分』、『他人は地獄だ』、【ドラマ】『私のおじさん~WATAOJI~』(EX)、『女子高生の無駄づかい』(EX)、連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(NHK)、『たとえあなたを忘れても』(ABC)、『年下彼氏2』(ABC)、『失踪人捜索班 消えた真実』(TX)、『天城越え』(NHK BS)などがある。

PHOTOGRAPHER:HIROKAZU NISHIMURA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI,HAIR&MAKE:熊谷美奈子(横山由依)/小坂沙織(岡田結実),STYLIST:林峻之(横山由依)/吉田あかね(岡田結実)