『わが友ヒットラー』は人間の心や思惑が垣間見えて、意見のぶつかり合いが魅力的な作品
――お二人とも三島由紀夫作品は初めてとのことですが、『わが友ヒットラー』のオファーがあった時の気持ちから教えてください。
小西成弥(以下、小西) 去年、演出の松森(望宏)さんと『ヒストリーボーイズ』という作品でご一緒させていただいていて、今回またご一緒できることがうれしかったです。三島由紀夫作品は一度もやったことがなかったのですが、とあるプロデューサーの方から、「いつか三島をやったほうがいいんじゃない」と言われたことがあって興味はありました。ただ、難しい作品という印象があったので、覚悟を持って挑まないといけないなと思いました。
小松準弥(以下、小松) 僕も三島作品に触れさせていただくのは初めてだったので、同じく難しそうだなというのが第一印象でした。松森さんとは以前、演出助手として入られていた『反乱のボヤージュ』という作品でご一緒していて、いつか松森さん自身が演出の作品でご一緒できたらと思っていたんです。松森さん演出で三島作品に挑戦できるのは光栄でしたし、同時に気を引き締めていかないといけないという思いがありました。アドルフ・ヒットラー役の谷佳樹さんと成弥くんは以前共演したことがあったので心強かったですし、グスタフ・クルップ役の森田順平さんとご一緒するのは今回が初めてですが、素敵な俳優陣に囲まれて、この作品に挑戦できるのがうれしかったですし楽しみでした。

――台本を読んだ時の印象はいかがでしたか。
小西 セリフの難しさに面食らいました。「いつまで話すんだろう」と(笑)。2、3回読んでも、「ちょっと何言っているのか分からないな」みたいなところが幾つもあったんです。でも最初のテーブル稽古で台本や、当時のドイツの歴史について皆で共有していく中で、これだけ比喩を使っている理由や、あれだけ長くしゃべる理由などを少しずつ理解できるようになりました。
小松 僕も歴史に詳しいわけではなかったので、独裁者ヒトラーのイメージはありましたが、どうしてそうなっていったのか、周りの人間たちはどういう気持ちでヒトラーと共に過ごしてきたのか、そういうところに触れることができたのが新鮮でした。言葉は難しいですし、現代とは価値観が違うかもしれないですが、人の思いや大切にしているところなどに関して言うと、昔も今も変わらないのかなと思いました。だからこそ人間の心や思惑が垣間見えて、意見のぶつかり合いが魅力的な作品だと感じました。
――稽古に入る頃には、セリフは入っていましたか?
小西・小松 うーん……。
小松 二人とも黙っちゃった(笑)。
小西 入っていたと言いたいところですけどね(笑)。最初の1週間はテーブル稽古で、その間にセリフを覚えつつ、まずは理解を深めることに重点を置いていました。それをやったことで、セリフも入ってきやすくなりました。自分の役の立場になって、言葉の理解も深まったんですよね。
小松 初めて立ち稽古をやった時も、「どういうふうに言おうか」ということを考える余地もないというか、それよりも相手のセリフをしっかり聞いて、何を感じて、そこからどう出てくるかを見つけていく時間になりました。

――それぞれの役柄についての印象を教えてください。
小松 ヒットラーの盟友エルンスト・レームは男らしくて、軍人への魂の捧げ方が真っ直ぐなんです。ある種シンプルで分かりやすい性格なんですが、それに対する熱い思いは相当の強さと覚悟があると思います。レームはヒットラーに対する不満や不安もありますが、その中でも「自分の意思はこうだ」「革命を再び起こすんだ」という、そこに向かっていく心の強さや行動に移していきたい思いを感じます。また、ヒットラーと共に歩みたいという、ヒットラーを思い続けることにもしっかりと重きを置いて、大事に演じたいと思いました。
――タイトルもレームの視点です。
小松 三島さん自身も思い入れのある役だと言われていて、そのことも頭の片隅には置いていますが、そこまでプレッシャーには感じないようにしています。再演という形ではありますが、4人のうち僕と成弥くんは初参加なので、僕たちにしか出せない色をしっかり出せたらいいなと思いますし、僕だからこそ表現できるレームになればいいなと考えています。
