『テニミュ』の4年半は必死にやっていたので、思い返せばあっという間

――キャリアについてお伺いします。このお仕事を始めたきっかけを教えてください。

小越 僕は会ったことがなかったのですが、祖母の友達の方が僕の写真を見て、勝手に事務所のオーディションに応募して。受かったから、面接に行ってきなさいというのがきっかけです(笑)。当時3歳だったのですが、両親としては送り迎えをしなければいけないから、積極的にやらせたくはなかったみたいです。それでもレッスンや現場に連れて行ってくれたので感謝しています。僕自身は小さかったのもあって、完全に習い事みたいな感覚でした。

――自分の意志で、お芝居でやっていこうと決断したのは、どれくらいの時期ですか。

小越 小学校から中学に上がる時に、両親から続けるかどうかを聞かれたんです。ちょうど入っていた作品で、お芝居を通して人とやり取りすることが楽しいかもと思い始めていた時期で。その時点で、子役を10年近く続けていたので、ここまで積み重ねてきたものを辞めてしまうのはもったいないなという気持ちもあって、続けようと決めました。その後、高校に入る時に改めて将来のことを両親と話して、この仕事を続けていきたい、できることなら死ぬまでやっていたいという気持ちがあったので、芸能科のある学校に入れてもらいました。そこが俳優としてやっていこうという大きな起点だったと思います。

――小越さんの出世作となったミュージカル『テニスの王子様2ndシーズン』(以下、『テニミュ』)の主役・越前リョーマに抜擢されたのが2010年ですから、同じくらいの時期ですよね。

小越 僕はいわゆる“天才子役”みたいなタイプではなかったので、高校生になるまでに何百本受けたか分からないくらいオーディションに挑戦してきました。やっと高校生になって、主人公役が決まったので、『テニミュ』にかける思いは強かったです。それまで歌もダンスも苦手で、人前で何かをするのもどちらかというと苦手だったんです。映像だとカメラの前なので、誰かに向けて演じているという感覚がそんなになかったんですが、舞台はそうはいかない。本格的な歌とダンスは初めてだったので大変でしたが、そこで表現することの楽しさをより強く感じました。結果的に『テニミュ』の出演は4年半も続いて、必死に食らいついていく中で今の自分が出来上がったと思います。

――当初は4年半も続ける予定ではなかったんですよね。

小越 最初は2年間の予定だったのですが、新しいシーズンでも越前リョーマを続けませんかというお話をいただいて、「ぜひやらせてください!」とお答えしました。同じ役を4年半もやらせていただくなんて、舞台でも映像でもめったにない経験なので、すごく貴重な時間でした。必死にやっていたので、思い返せばあっという間でしたね。

――長く同じ役をやったことによる弊害みたいなものはなかったですか。

小越 いまだに「越前リョーマ役が良かった」と言ってもらうこともあるので、すごく感謝しているんですが、『テニミュ』を卒業した翌年、ロックオペラ『サイケデリック・ペイン』という舞台で主演を務めさせていただいた時に、演出家の茅野イサムさんに「2.5次元舞台の癖がついている」と何度も指摘されたんです。自分では全然意識していなかったのですが、たとえば正面を見る癖などがついていたみたいで、それをなくしていくのは大変でした。

――この十数年で、すっかり2.5次元舞台が世の中に浸透しました。

小越 僕がやり始めた頃は2.5次元という言葉が出始めたくらいでしたが、今や2.5次元といえば必ず『テニミュ』が挙がりますし、これだけ長く続いているのはすごいことです。

――『テニミュ』以外でターニングポイントになった舞台は何でしょうか。

小越 やっぱり『サイケデリック・ペイン』ですね。かなり茅野さんには絞られましたが、もちろん愛があってのことで。お芝居への思いが強いからこそ、僕に期待してくれていたからだと思います。わりと僕はメンタルが強いので、何を言われても心は折れないんですが、自分のできなさ、期待してくれているのに全然ダメだという苦しさはありました。先輩方が見ている前で、同じシーンを幾度となく繰り返して、どうすればいいか分からなくなったこともあったんです。でも茅野さんが「自分を信じろ」「いつか抜ける日が来るから大丈夫だ」と言い続けてくれて。台本が真っ黒になるくらい書き込みをしながら稽古を続けていたら、ある日ふっと何かが変わった瞬間があって。そのきっかけが何だったのかは自分でもよく分からないんですけど、苦しんで苦しんで考え抜いたことで生まれた何かだったんだと思います。それが20歳になってすぐくらいで、演劇への思いがより強まりました。

――舞台の醍醐味はどういうところに感じますか。

小越 稽古期間という時間があるからこそ、いろんな挑戦や失敗ができるのが舞台で。一つの作品をみんなで作り上げていく時間は苦しさもありますけど、その蓄積が先を作っていくというか。舞台でしか味わえない、お届けできない良さというのがあって、だからこそお客さんが足を運んでくれるんだろうなと感じます。

Information

エクストリーム・シチュエーションコメディ(kcal)
『汗が目に入っただけ』

東京公演:2026年4月3日(金)~4月19日(日) IMM THEATER
ほか広島・大阪・富山・山形公演あり

出演:鈴木保奈美 足立梨花 小越勇輝 西野創人(コロコロチキチキペッパーズ) 蘭寿とむ 田中要次 ほか
脚本・演出:冨坂 友(アガリスクエンターテイメント)

60歳を前にぽっくり亡くなった森井由美子(鈴木保奈美)は、霊魂として、納棺式を終えた自分の遺体を見ている。彼女の目の前には、成仏することができない問題があった。共同で喪主を務める子供たちが、自分の葬儀のやり方をめぐって揉めていたのだ。長女(足立梨花)はキリスト教式の葬儀を準備してきたが、長男(西野創人)は仏教式でやるべきだと主張。共に「お母さんのために」と言う両者は一歩も引こうとしない。次男(小越勇輝)は仕事のトラブルでそれどころではない。さらには別れた夫(田中要次)までしゃしゃり出てくる。通夜は数時間後に迫っているというのに……。気を揉むことしかできない由美子の前に、葬儀社の担当らしき女性(蘭寿とむ)が訪ねてくる。
どうやら彼女は霊である由美子のことが見えるようで……?

公式サイト
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小越勇輝

1994年4月8日生まれ 東京都出身。3歳で子役デビューし、14歳の時に『仮面ライダーキバ』で準レギュラーとして出演。2010年よりミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズン(10~14)で主演の越前リョーマ役を演じ、歴代テニミュ出演者の中で最多出演回数を記録して“プリンス・オブ・テニミュ”の称号が与えられた。以降も『弱虫ペダル』(15)や『呪術廻戦0』(24・25)の主演や、ミュージカル『刀剣乱舞』、『HUNTER×HUNTER』(23・24)など、2.5次元舞台で人気のある作品に次々と出演。2016年に放送された『弱虫ペダル』(16)のテレビドラマ版でも主演を務めた。近年の出演作に【舞台】朗読劇『#真相をお話しします』(26)、『甦夢THEATRE「黄金仮面―masque doré―』(主演:24)【映画】『帰ってきた あぶない刑事』(24)、『わたしの幸せな結婚』(23)【ドラマ】『BLドラマの主演になりました』(24・25・テレ朝・TELASA)、【配信ドラマ】『ダレハラー妻の真実が暴かれる時ー』(主演:25・BUMP)など。

PHOTOGRAPHER:HIROKAZU NISHIMURA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI,HAIR&MAKE: YUJI NAKANISHI(Sui)