リアリティから外れないコメディという新しいジャンル
――美香子を利用しようとするSGCの社員・金城を演じた森崎ウィンさんの印象はいかがでしたか。
田中 事前にできる男の人物像を、人間観察やYouTubeなどで研究されており、そこから取り入れたいものを監督に積極的に伝えていて、すごく熱心な方でした。金城は胡散臭さと爽やかさが絶妙で憎めないキャラクターなんですが、そのバランスが見事でした。

――森崎さんのお芝居を受けて、変化する部分はありましたか。
田中 終盤の対峙するシーンで、金城は怒りがマックスな状態なんですけど、ウィンくんが本気で向かってきてくれて。そうなると美香子のマインドが入っている私は冷静になっていくんです。それだけぶつかってきてくれたことが、美香子の反応に影響したのでありがたかったです。
――美香子の夫・藤根路範を演じた阿諏訪泰義さんは、芸人ならではのとぼけた雰囲気が醸し出されていました。
田中 予期しないところで面白い返しが来るので、お芝居してて楽しかったです。
――金城の部下・土岡瞳を演じた石川恋さんは、生真面目ながらも抜けたところのある女性になりきっていました。
田中 恋ちゃんも全身でぶつかって演じていらっしゃったのですが、瞳がアップアップしてパニックになっていく姿や、美香子に弱みを握られて利用されていく様子がコミカルでかわいかったです。
――萱野孝幸監督とのやり取りで印象に残っていることはありますか。
田中 話し合いの中で、共通言語として映画のタイトルが幾つも出てきたのですが、たとえば、「『おしゃれ泥棒』(66)のオードリー・ヘプバーンや『泥棒貴族』(66)のシャーリー・マクレーンは悪事に手を染めていても優雅さがあって素敵だよね。そうした映画のクラシックさやゴージャスさを兼ね備えた映画になったらいいね」とおっしゃっていて。一方で萱野監督の作品はリアリティがあって、登場人物も身近な存在として描かれているので、『黄金泥棒』も萱野色のあるエンタメになるという予感がしました。

――萱野監督の演出はいかがでしたか。
田中 細かく演出される方なんですが、穏やかな前半から転調して、後半のスピード感ある撮影に入る前に、「こういう感じで撮ります」という映像を全員に共有してから現場に入れたので、すごくスムーズでした。絵コンテで見せていただくことはあっても、映像で見せていただいたのは初めてで、こういう作り方もあるんだという発見がありましたし、引き出しの多い方だなと感じました。
――後半、水を得た魚のように活力を漲らせる美香子を演じる上で意識したことはありますか。
田中 最初に脚本を読んだ時から、生きがいを見つけた時に、みるみる力が湧いてくるようなイメージがあったので、そこに向かって邁進しようという意識で演じました。アクションもありましたが、体を動かすシーンが大好きなので、たくさん走って、楽しみながら演じられました。
――完成した映画をご覧になっていかがでしたか。
田中 他に観たことのない映画だなと思いましたし、美香子もこれまでにないようなキャラクターでした。テンションの高いコメディ映画を想像される方には、「何これ?」という肩透かしがあるかもしれないですが、ヒューマンドラマの要素もあって、リアリティから外れないコメディという新しいジャンルだと感じました。わりと静かな役が続いていたので、こういう動ける役もできるぞというところを見ていただけたらと思います。
