全ての色の美しさを持っている黒が大好き
――どんなときに文章を書くことが多いんですか。
若月 プライベートで電車に乗っているときです。電車の中って本当にすることがないじゃないですか。みんな携帯を見ているんですけど、それを見るのが好きで。それぞれ、いろんな理由で、いろんな場所に向かっていて。たとえばサラリーマン風の年齢を重ねた男性がケーキを持っていたら、「家族のために買ったのかな?」とか、ちょっとしたドラマが見えたりするので、そこからイメージをどんどん膨らませていってスマホで書くんです。
――全てスマホで文章を書いたんですか?
若月 そうです。だから改行とかが、めちゃめちゃ難しくて。私はスマホで文章を書くとき、スペースを空けるタイプなので、そのまま誌面に載せるとバランスが悪くなることもあるんですよね。そこは編集担当の方に調節していただきつつ、なるべくスペース部分を活かしていただきました。
――フォトエッセイはデザインの自由度が高いから、雑誌の掲載時とは印象も変わりますよね。
若月 そうなんです。たくさんわがままを言わせていただきました(笑)。特に背景を黒くしていただいたページには、こだわりがあって。私は絵を描くときに、背景を黒にすることが多いんです。なぜかと言うと、全ての色を合わせたのが黒色で、全ての色の美しさを持っているのに、美しいと言われにくい色だなと。そんなところが大好きで、普通は白地に文字を置くことが多いですけど、あえて黒にしていただいて、私らしさにこだわりました。
――写真のセレクトや配置などにも若月さんの意見が反映されているんですか?
若月 めちゃめちゃ反映しています。申し訳ないなと思いつつ、いろいろな希望を叶えていただきました。写真もポーズや表情はもちろん、衣装やアクセサリー、スタジオのイメージまで、私のやりたい方向性を伝えさせていただきました。
――文章と写真のイメージが合致しているページもあれば、そうではないページもありますが、何か狙いがあったのでしょうか?
若月 仰る通り、文章に寄り添った写真もありますし、全然文章と関係ない写真もたくさんあります。というのも、写真だけ楽しみたい方もいると思ったからなんです。もちろん文章を読んでもらうのも大事なんですけど、人それぞれ感性が違うので、文章が響く人もいれば響かない人もいます。だから文章は響かなかったけど、写真は好きだと感じてもらえればいいなと思って、可能性を広げるために全然関係ない写真も使っています。
――また本作りに関わりたいですか?
若月 すごく難しさを感じたので、今回のような形で関わるかは分かりません。ただ文章を書いていく中で、改めて小説家さんや脚本家さんに対する尊敬の念が生まれて。いつかそういう方々とお話しをして、一つの作品ができたらいいなと思っています。マンガで言えば、原作者と作画者のような関係というか、他力本願かもしれないですけど、自分の頭の中を文字に起こして物語にしてもらうようなコラボレーションをしてみたいです。
――改めて『履きなれない靴を履き潰すまで』をどんな風に読んでほしいですか。
若月 約3年間に渡っての写真が掲載されているので、私自身のビジュアルの変化もかなりあります。写真集のように、それに合わせて撮影をしている訳ではないので、お仕事の関係で金髪だったり、急にロングからショートになったりと、リアルな私を切り取ってもらっています。そういうビジュアル面も楽しんでほしいですし、言葉もポジティブなものもあれば、グサリと突き刺すようなものもあったり、物語性があるものもあったりと様々です。連続性はないので、どこのページから読んでもいいですし、その中から一つでも記憶に残るものがあって、何かの感情が動いたときに思い出してもらうとか、人生に寄り添って楽しんでもらえたらうれしいです。