4クォーター制ということすら認識していない状態で今回のオファーを受けた
――「FIBA バスケットボールワールドカップ 2023」(以下、「FIBA2023」)の日本代表戦はリアルタイムで観ていましたか?
大西雄一(以下、大西) 映画のオファーは11月にいただいたんですが、熱心に「FIBA2023」を追っていた訳ではなくて、たまたま日本が勝利したフィンランド戦(2023年8月27日)から観ていました。振り返ってみるとミーハーで新しいもの好きだからB.LEAGUEが開幕した年(2016年)に二試合観ているんです。とはいえ記憶に残っているのは、サッカーと比べてコートと客席の距離が近いなぐらいで、4クォーター制ということすら認識していなくて。今回のオファーを受けて、「FIBA2023」の試合を観返して、「そうか、前後半って言い方はするけど4クォーターあるんだ」とか「今は24秒でシュートを打たなきゃいけないんだ」と気付いたぐらい何も知らなくて(笑)。僕は今47歳で“スラダン世代”だと思うんですけど、『SLAM DUNK』でバスケの知識が止まっていたんですよね。
――なぜ大西監督にオファーがあったのでしょうか。
大西 僕は普段テレビのディレクターをやっていて、主にドキュメンタリーをジャンルレスに手がけているんです。今回プロデューサーを務めた森山智亘さんとは、過去にお仕事をしたことがあって、その後も何度かオファーをいただいていたんですが、なかなかスケジュールが合わなくて一緒に仕事できたのが一度だけだったんです。今回はスケジュールが合ったので、気軽に引き受けちゃったんですよね(笑)。ただ、どんな番組をやるときでも、何も知識がないところから始めることが多いので、一から勉強するのは一緒なんです。
――森山さんも、バスケに詳しい方より、フラットな目線の方にオファーしたい気持ちがあったのでしょうか。
大西 最初に「僕はバスケのことを知らないですよ」とお伝えしたんですが、「それは問題じゃない」と。僕よりもバスケに入れ込んでいる方や、長年バスケを撮り続けている方はたくさんいますが、あえてそういう人たちにオファーを出さなかったのは、客観的に見てほしいという意図があったんだと思います。
――どのように制作はスタートしたのでしょうか。
大西 まずはFIFAの国際映像で日本戦全5試合を観るところから始めました。テレビ中継だと、アナウンサーの実況や、田臥勇太さんなどプロの解説が入っているので分かりやすいんですが、国際映像はそれがないんですよね。そうするとキュッキュッというバスケットシューズの音や、ダムダムダムとボールを突く音、あと観客の声援などが、より鮮明に聞こえてくるんです。
――確かに映画を観たとき、今お話しに出た試合会場ならではの音が際立っているなと感じました。
大西 そうでしょう!それをちゃんと伝えようと意識しました。沖縄まで足を運んで試合をご覧になったバスケットに熱を持っているブースターの方々でも満足できるものを作らなきゃいけないですしね。逆に僕みたいにテレビで見た人にも、沖縄の会場で見たら、こんな感じだったんだというのを追体験できるようなものでないと、この時期に映画を作る意味がないかなと思って、あえて実況などは入れなかったんです。代わりにナレーションが必要だなと思って、現地の熱量を知っている方ということで広瀬すずさんにオファーしました。
――全5試合と言っても、映像は膨大ですよね。
大西 膨大でしたし、5試合を1回ずつ見て終わりじゃなくて、選手それぞれ役割が違うから、得点シーンだけでもいっぱいあるじゃないですか。その中でどこをフォーカスするかを考えなきゃいけない訳です。選手へのインタビュー時間も限られていたので、絶対に聞くべきことを見出すために何度も5試合を見返しました。正確な数は分かりませんが、1試合50回以上は見返したと思います。
――編集も監督が関わっているんですか。
大西 ある程度、僕がストーリーラインを作って、編集は別の方に入っていただきました。特にオープニングのスタイリッシュな選手紹介などは、僕が苦手とするタッチだったので、完全にお任せしました。
――映画のタイトルにもなっている「BELIEVE」というキーワードは、いつぐらいから頭にあったのでしょうか。
大西 僕のところに初めて届いた企画書には、確か「諦めなかった男たち」というタイトルが書いてあったと思います。でも僕の中でしっくりこなくて、もうちょっと彼らの思いを一言で表せるキャッチーなものにしたいなと。もしかしたらテレビ屋的な考え方だったかもしれないですけど、そのときに思いついたのが「BELIEVE」だったんです。まだ選手にインタビューする前だったので、「BELIEVE」が先走っている感もあるかなという気持ちもありました。でも選手やヘッドコーチのトム・ホーバスさんにインタビューしていく中で、「BELIEVE」で間違いなかった、良いタイトルを付けたなと確信しました。「FIBA2023」で勝てたのは、みんなが“信じていた”からこその結果ですからね。