再演をやるにあたって、目標を掲げられるかどうかを自分自身に問うた

――『裸足で散歩』の再演が決まったときのお気持ちからお聞かせください。

戸田恵子(以下、戸田) 事あるごとに公言しているんですが、私は再演自体があまり好きじゃなくて(笑)。再演をやるんだったら、新しいものをやりたいなと、いつも思っているんです。ただ今回の再演に関しては、戯曲の作者は大好きなニール・サイモンですし、私自身が40年前にコリー・ブラッターを演じているのもあって、『裸足で散歩』は思い入れのある作品です。再演するにあたって、目標を掲げやすい作品ではあるのでお受けしました。

――再演のオファーを受けるのは珍しいことなんですか。

戸田 作品に関係なく、再演と聞いただけで「すみません」と即答するぐらいで(笑)。自分の中で明確な目的意識がないと基本的にお受けしないというか……。もちろんお話をいただくことはありがたいんです。初演が好評だったという証でもありますしね。ただ再演はいろいろ難しいんですよ。わざわざ困難な道に踏み込むのが大変なことは、長い演劇人生で痛いほど分かっています。だから今回もお話をいただいて、ちゃんと目標を掲げられるかどうかを自分自身に問いました。

――再演の難しさというのは、初演を超えるプレッシャーということでしょうか。

戸田 それもありますが、新しいことを創作するのはとても楽しくて、みんなで何かを作り上げていく作業は、お芝居の醍醐味なんですよね。そこで一回できあがったものを、再演でブラッシュアップしていくんでしょうけど、一から作り上げる大変さを上回る楽しさが初演にはあるんです。今後、私は舞台を何十作もできないと思うので、限りあるチャンスの中で、新しいことをどれだけできるのか考えるときもあります。闇雲に再演を嫌がっている訳ではないんですが、それ以上に初演の楽しみがあるということですね。

――今回の『裸足で散歩』では、どういう目標を掲げられたのでしょうか。

戸田 私が演じるバンクスは、娘のコリーが住んでいるアパートでヴィクター・ヴェラスコという変人との出会いがあって、その先の人生が少しだけ変わっていきます。コリーの計らいによって、忘れていた感情が引き出されるのですが、その部分を大切に演じようと。バンクスはきっちりした性格で、日頃からコリーのことを危なっかしく見ていたけれども、コリーの采配によって、お母さんもオブラート1枚ぐらいの階段を上った、みたいな。年齢に関係なく、そういう出会いや心変わりがあるんだということを、より丁寧にやるというのが大きな目標です。もう一つ、親子関係に関しても目標があって。コリーを演じる(高田)夏帆さんは前回が初舞台で、共演自体も初めてでした。プロの役者としては、初めて会ったときから、親子のようにやらなきゃいけないんだけれども、いろんな条件もあるし、もっと見えない絆を表現できただろうなと思ったんです。初演から2年が経って、夏帆さんも幾つか舞台を経験して、また一緒にやるにあたって、より絆も深くなっているのではないかと感じて、それが楽しみでもあります。