稽古までの準備期間に不安要素を解消できるようにボイストレーニングに通った

――もともとミュージカルを観に行くことはありましたか?

赤名竜乃介(以下、赤名) 子供の頃から劇団四季さんが大好きなのもあって、ミュージカルには早くから親しんでいたのですが、本当に一ファンとして観ていただけでした。だから自分がミュージカルに出るというのは想像もしてなくて、『アニー』の出演が決まったときも不思議な感覚でした。

――『アニー』には、どんなイメージをお持ちでしたか?

赤名 作品自体は昔から知っていて、実際に観たこともあったんですが、毎年アニー役を決める大規模なオーディションを行っていて、とても有名で幅広い層に愛されている作品という印象がありました。

――赤名さんが演じるのは、アニーの両親を探すためにかけられた懸賞金を目当てに悪だくみをする一味の一員、ルースターです。

赤名 ざっくり言うと悪役なんですが、物語の舞台となった1933年のニューヨークは、世界大恐慌直後で貧富の差が激しくて、悪さをしないと生きていけないような状況でもあります。ルースターはだらしないところもあるんですが、そこに人間味があって、どこか憎めないところもあるキャラクターです。僕にとっては初めての悪役ということもあり演じるのがワクワクしました。

――稽古に臨むにあたって、どんな事前準備をしましたか。

赤名 出演が決まってから稽古まで3か月ほど準備期間があったんですが、僕にとって初めてのミュージカルなので不安要素が多くて。なるべく稽古までに不安要素を解消していけるようにと個人的にボイストレーニングに通って、歌の練習をしていました。あとは当時の資料や映像などを通して、その時代のアメリカ文化に触れるようにしました。

――赤名さんは2023年までダンス&ボーカルグループ「VOYZ BOY」に所属していましたが、それまでやってきた歌と、ミュージカルの歌は違いますか。

赤名 全く違いますね。歌って踊ることに慣れているつもりでしたが、自分を過信していたのかもしれません(笑)。発声の仕方から違っていて、初めての経験をしている感覚です。歌といっても、お芝居の中の曲なので、芝居の流れを大切にしなくてはいけないですし、他のキャストから受け取ったものを、次のシーンに繋いでいくという点においても、今までやってきた歌とは別物です。ただ、初心者が歌いながら踊ると声がブレてしまいますし、考えることも多くてパニックになりがちですが、そこに関しては落ち着いて自分の課題に向き合えているので、ダンス&ボーカルグループの経験が活かされているのかなと思います。

――稽古はいかがですか?

赤名 良い意味で苦戦しています。稽古が終わった後も不安で、家に帰っても休む気になれずに自分でスタジオを借りて練習しています。声を潰してしまったり体調を崩したりすると元も子もないので無理はできませんが、良いバランスで自分を追い込んでいけたらなと思っています。

――不安に感じる部分はどういったところですか?

赤名 本番までに完璧なものをお客様に届けたいという気持ちからくる不安です。ミュージカルが初めてということもあり、まだまだ上手くできない自分がいるので、早く不安を解消したいですね。

――稽古場の雰囲気はいかがですか?

赤名 とても良い雰囲気です。演出家の山田和也さんが、演者側の気持ちを理解して演出をしてくださるので、そういう部分での不安は全くありません。キャストの皆さんも素敵な方ばかりで、前半はハニガン役の須藤理彩さん、リリー役の浜崎香帆さんの3人でお芝居を作っていくことが多いんですが、後半は他の大人キャストの方々とも絡むシーンがあるので、皆さんとお話したり、ミュージカルの先輩方のお芝居を間近で見たり。僕の大好きな言葉に「賢者は路傍の石からも学ぶ」という格言があるんですが、子役の皆さんからも学ぶことがたくさんありますし、もちろん百戦錬磨の大人キャストの皆さんから盗むものや学ぶこともたくさんあって、いろんなものを吸収させていただいています。

――現時点で、本番で楽しみにしていることは何ですか?

赤名 舞台はお客さんの雰囲気だったり、その日の天気などによって、感じるものが違います。演者側としても、他の役の方から飛んでくるニュアンスが少し違うだけで、練習期間に積み上げてきたものとは違うものが生まれます。そういう生ものならではの楽しみがありますね。先ほど“不安”という言葉を出しましたが、本番に向けては楽しみな気持ちのほうが9割9分です(笑)。