25/26年秋冬コレクションで印象に残ったISSEY MIYAKEとValentino

――25/26年秋冬コレクションはいかがでしたか。

Novel Core 僕がチェックしたのはメンズがメインではあるんですが、いろんなブランドのショーを映像や写真で見て、ハイエンドのブランドも、ドメスティック・ブランドも面白かったですね。特にドメスティック・ブランドからは挑戦的な姿勢を感じて楽しかったです。

――特に印象に残ったドメスティック・ブランドは?

Novel Core パリで開催されたISSEY MIYAKE(イッセイミヤケ)のショーです。最初にモデルが全員登場して、台の上に乗っかって、ニットの袖の部分に両足を突っ込んだり、パンツに頭から入ったりと本来とは違う服のまとい方をした状態でポージングを取って。そのまま静止した状態でショーが始まるという出だしから目を奪われました。調べてみたら、エルヴィン・ヴルムというオーストラリアのアーティストに「ワン ミニッツ スカルプチャーズ(1分間の彫刻)」シリーズというアート作品があって、そこからデザイナーの近藤悟史さんがインスピレーションを得て、今回のオープニングに繋がったそうなんです。今回のメインコンセプトは見慣れたもの、日常的に使っているもの、よく知っているものを、見る角度や使い方を変えることで再解釈して、全く違う独創的なものに昇華させるというもので。抽象と具象、立体と平面などをごちゃ混ぜにするようなコレクション。そのテーマを冒頭の演出から表現していて、とても印象的でした。

――ショー全体の印象はいかがでしたか。

Novel Core 長年に渡ってISSEY MIYAKEのシグネチャーになっているプリーツのドレスを様々な形で表現していたんですが、通常のプリーツドレスで歩くモデルもいれば、プリーツドレスを転写して平面でプリントした白のドレスを着て歩くモデルもいて。無数にスリットが入ったニットを、腕を通す位置などによって、平面的に見せたり、立体的に見せたり。今年からMAISON MARGIELA(メゾン マルジェラ)のクリエイティブ・ディレクターに就任したグレン・マーティンスがやっていることにも近いんですが、人によってシルエットを変えられるところが、現代に合った提案の仕方だと感じました。

――細かい部分まで掘り下げて見ているんですね。

Novel Core 気になったショーは複数回見ますし、背景や詳細も調べます。まずは生配信で見るのですが、時差の関係で夜に配信されることが多くて、眠れなくなってしまうこともあります。あとインスタの配信で見ていると、縦型で切り抜かれているから、衣装の全体像が分かりにくいことがあります。だから後日アーカイブで、きちんと見直すようにしています。特に今回のISSEY MIYAKEのオープニング演出は印象的過ぎて、何かサンプリングソースがあるのかなと思って、様々なメディアの記事を見て調べました。そもそもアート作品が好きなので、ショーの音楽や演出についても積極的に掘り下げるようにしています。

――海外ブランドはいかがでしたか?

Novel Core  Valentino(ヴァレンティノ)が面白かったですね。2024年にクリエイティブ・ディレクターに就任したアレッサンドロ・ミケーレにとって2回目のショーで。特に印象的だったのが、会場が真っ赤な男女共用の公衆トイレになっていたところです。Valentinoのハウスカラーは赤ですが、その捉え方が公衆トイレという設定で見え方が変わってくるんですよね。ミケーレはトランスジェンダリズムの草分け的存在で、メンズとウィメンズの合同コレクションでもジェンダーの境界を感じさせないような、誰がどう着てもメッセージを自己発信できるような演出になっています。今回の公衆トイレにしても、ミケーレ自身が意識していたかは分かりませんが、人種や性別などに関わらず、誰もが「赤い血」が流れているという平等の象徴に見えました。Valentinoはカチッとした格好やシルエット、ボタン一つとっても丁寧に装飾されたデザインなど、気品を大切にしてきたブランドです。ミケーレは、その要素も残しつつ、今回のコレクションではバラクラバを被って華やかなドレスを着るなど、カオスな要素もあって。ミケーレの中で、古き良き伝統を残したい部分と、オケージョンウェア以外の分野で挑戦したいという思いの表れではないのかなと。そこにトランスジェンダーに対する考え方や感情が複雑に表現されていて、ミケーレの情緒が心配になるような部分もあったのですが(笑)。人間性が出ている点も良くて、それって現代社会らしさだなと。不変のフォーマットやテンプレートがあって、なかなか離れることはできないし、ぱっと切り捨てて振り切ることもできないけど、自分の中で沸々とした何かがあって。旧来のフォーマットに、自分らしさが混ざって、どんどん無秩序になって複雑化していくみたいなことって今の時代、誰しもが持っているテーマな気がしていて、人間らしくていいなと思いました、

――すごい洞察力ですね。

Novel Core ほとんどは邪推かもしれませんが(笑)。どんなエンターテイメントでも、「人が作っている」ということが、ファッションでも音楽でも面白いなと思っていて。これだけAIやChatGPT、ロボットなどが台頭して、ブルーカラーの職種にも取り入れられる中、人が作っているからこその情緒不安定さや矛盾がファッションの面白さの一つであって。理屈で説明できなくていいみたいなことが今回のValentinoから感じたんです。いろんな批評がありますし、前回のコレクションも賛否両論だったと思うんですが、それがいいなと思いました。

――ファッションが時代を映す鏡だとしたら、ハイブランドが時代の空気を読んで提示したものが、3年後ぐらいにストリートにも反映されて、一般の人が着るようなものになっていく。そうしたブランドのクリエイティブ・ディレクターは、デザイナーというよりもアーティストに近いですし、Coreさんのように自由で独創的な見方をしてもらえるのはうれしいことだと思います。Coreさん自身、自分の曲が意図していたものとは違う捉えられ方をされることもあると思いますが、それに通じることではないでしょうか。

Novel Core リスナーそれぞれが、いろんな聴き方をしてくれるのはうれしいですね。僕が音楽をやっていて面白いなと思うのは、まさにそこで。例えば自分の母親に向けて書いたパーソナルでフォーカスを絞った楽曲なのにも関わらず、僕の名前も顔も知らない世界にいるどこかの誰かが、自分と自分の母親の物語に代替して解釈してくれたり、恋人に向けた曲として解釈してくれたり。全然違う解釈のされ方をして、それぞれの人生にフィットしていく。作り手の予想を超える広がり方をしたり、作り手の想像の範囲じゃないところで何かが起きたりしたときに初めて、ミュージシャンとしてアーティストとして何かを作り出したという実感が湧くんですよね。僕が曲を作って、背景などを説明して、それを説明通りに受け取ってくれるというのは“商品”に近い。それって音楽的、アート的な盛り上がり方じゃないと思うんです。僕が説明しなくても勝手に解釈が広がって、それぞれの中で、それぞれの盛り上がり方をしていって、結果的にパイが増えていって、大規模なものになるというのが、音楽、ファッション、アートなどに共通するカルチャー独特の面白さですね。