脚本を書いた城定秀夫さんの手のひらの上にいるようだった

――映画『YOUNG&FINE』の主人公・灰野勝彦はオーディションで決まったとお聞きしました。インティマシーシーンも多いですが、抵抗感はなかったのでしょうか。

新原泰佑(以下、新原) インティマシー・コーディネーターの方がいらっしゃるという安心感もありましたが、インティマシーシーンに対して嫌だとか後ろめたい気持ちは一切なくて。原作を描いた山本直樹さんにしても、脚本を書いた城定秀夫さんにしても、そこにちゃんとした意味があって、必然性のあるシーンだからこそ、他のお芝居との違いも感じませんでした。今まで出演してきた作品の経験も生かしつつ、新たな挑戦ができるという気持ちでした。

――原作漫画を読んだときは、どんな印象を持ちましたか。

新原 さらっと読めるけど、中身は濃くて、一コマ一コマに作家性が顕著に出ているなと感じました。最近のマンガの多くは、一コマに濃密な書き込みをすることを重要視しているイメージがあるのですが、もっと根本的な部分を大切にしているように感じて、山本さんと漫画を通して会話をしているような気分になれたんです。もともと僕は漫画もアニメも大好きなので、今の作品も楽しく読ませていただいているのですが、山本さんの作品は感触が違っていて、新たな世界を脳内に入れられたような感覚でした。

――この作品は地方特有の閉塞感も描かれていますが、その辺は理解できる部分はありましたか。

新原 僕の地元は埼玉ですが、わりかし田舎のほうなので山育ちなんです。今回の作品は海辺が舞台という違いはありますが、積極的に外の地域に出ない閉塞感みたいなのは理解できました。すぐに外に行けるはずなのに、地元で満足している自分みたいな気持ちはすごく分かります。ご近所付き合いにしても濃密ですし、『YOUNG&FINE』で言えば、何かあったら寿司屋に集まるみたいな、僕の地元の空気感とどことなく似ていますね。ただ僕は4歳からダンスをやっていたので、一人で都内のスタジオに行く機会が多かったんです。だから実体験ではないけど、見慣れた景色ではあったので、今回の芝居に生かせたと思います。

――オーディションで特に記憶に残っていることはありますか?

新原 ラインプロデューサーの浅木大さんに抱きついたことですかね。新井玲子とのシーンで、浅木さんが玲子役をやってくれたんですが、すごく緊張されていて、セリフがカミカミでかわいかったです(笑)。僕は勝彦をやりたくて、本気で取りに行こうと意気込んでいたので、そういうところでも役に入り込んでいました。

――脚本を読んだ印象はいかがでしたか?

新原 城定節だなと。大好きな監督なので、この方の書いた世界の中に入って主演をできることは僕の中で特別なことでした。監督が長く城定組で助監督を務めてきた小南敏也さんというのも感慨深くて、僕の映画初主演の座組としては豪華すぎるなと思いつつもうれしかったです。

脚本で言えば、撮影現場で小南監督と話していく中で、あるシーンの繋がりやシーンの波が分からなくなった瞬間があったんです。「このシーンで何を見せたいんだ?」と二人で行き詰まってしまったんですが、改めて一緒に、そのシーンだけではなくて、何シーンか前から読み返したんです。そうすると城定さんが見せたかった繋がりや波が手に取るように見えて。「だから、このセリフはオフから始まるんだ」とか、「こういう絵を撮ってほしいんだ」とか、セリフとセリフの繋がりから、ト書きのように画が浮かんできたんです。あと読んでいると間が想像できるんですよね。それで僕と小南監督で「城定さんの手のひらの上だったね」と話したんですが、こんなに面白い脚本を書ける城定さんはさすがですし、何度も立ち戻りながら試行錯誤を繰り返せる相手が小南監督で良かったです。

――ト書きではなくセリフで理解できる脚本というのはすごいですね。

新原 もちろんト書きもありますけど、セリフを読めば分かるというか。教科書というよりは、カンニングペーパーみたいな(笑)。読み込めば、いろいろなことが湧いてくるように理解できる魔法のような本でした。