作品に濡れ場が必要なのであれば、俳優表現の一つとしてやりますという気持ちだった

――『卍 リバース』の原案は谷崎潤一郎の中編小説『卍』ですが、これまで谷崎潤一郎の小説を読んだことはありましたか。

中﨑絵梨奈(以下、中﨑) オーディションを受ける前に読んでおこうと思って初めて読みました。小説の『卍』は方言や言葉の使い方など、読み慣れていない文字が多くて、読むのに時間がかかりましたが、それを踏まえて脚本を読んだら、現代風にアレンジされていて理解しやすかったです。

――映画は小説と男女の関係が逆転していますが、初めて脚本を読んだときにどういう印象を受けましたか。

中﨑 個人的には男性同士のほうが、すーっと入ってきて受け入れやすかったです。事前に1964年版の映画『卍』も観たんですが、かなりドロドロした世界観で。宝来忠昭監督作品はほっこり優しいイメージが強かったので、どんな映画になるんだろうとワクワクしました。

――オーディションの時点で、どの役を演じるかは決まっていたんですか。

中﨑 私が演じた弥生と、田中珠里ちゃんが演じた綿貫香織のどちらかというオーディションで、その時点で弥生がトップレスになるのも記載されていました。そのときに両方の役を演じてみて、個人的には綿貫のほうが合うのかなという感覚があったんですが、まさかの「弥生でお願いします」ということで驚きました。

――どうして綿貫のほうが合うなと感じたのでしょう。

中﨑 まず自分が弁護士というのが想像できなかったですし、弥生と違ってしっかりしていないタイプなので、綿貫みたいに感情で動いているほうが想像しやすかったんです。でも実際に演じてみると弁護士もいけるのかなと(笑)。

――情報解禁のコメントで「私の今までの俳優人生の中で最も挑戦、そして覚悟をした作品になりました」と仰っていたのが印象的でした。

中﨑 覚悟という意味では、濡れ場があるというのが一番大きかったんですけど、脱ぐこと自体にはそこまで抵抗がなくて。作品に必要なのであれば、俳優表現の一つとしてやりますという気持ちでした。なのでオーディションを受ける時点で、自分の中で決意は固まっていたんです。葛藤した部分でいうと、今まで応援してくださった方々が、どう受け止めるのかなと。濡れ場は見たくないという人もいるかもしれない。でも私はプライドを持って俳優をやっているのも伝えたいし、この作品がターニングポイントになるかもしれないと思ったので、どう受け止められても突き進もうと思いました。実際、映画の情報が解禁されたときは、ビックリされたファンの方が多くて。不安そうな方もいれば、「今、谷崎潤一郎の『卍』を読んでいるよ」と作品を楽しみにしてくださっている方もいました。今から公開されたときの感想が怖くもありつつ、楽しみでもあります。

――弥生役が決まったときのお気持ちはいかがでしたか。

中﨑 これまで舞台を中心に活動してきたので、映画のオーディションでメインキャストに決まったのは初めての経験だったんです。まずはうれしくてウルッときましたが、それと同時にメインキャストだからこその責任感と、慣れない映像作品への不安もありました。

――完成した脚本を読んで、弥生にどんな印象を持ちましたか。

中﨑 メインの4人の中では一番まともで、モラルもあって、人としてここは超えちゃいけないというラインが明確にある。ただ大半の人間ってそうじゃないですか。そういう常識のある人が何かをきっかけに突然崩れていく。もしかしたら私もそうなる可能性があるんじゃないかと。明日は我が身という恐怖も感じたので、映画を観てくださった方にもそういう自分の危うさみたいなものを感じ取ってもらえたらいいなと思いました。

――撮影に臨むにあたって何か準備はされましたか。

中﨑 濡れ場があるということで、撮影1ヶ月前ぐらいからパーソナルを付けて、食事制限をして、体作りを頑張りました。ただ後半になるに従って、どんどん弥生は憔悴していくので、筋肉ムキムキは違うかなと思って、か細くて弱々しく見えるように意識しました。あとクランクインの前にリハーサルのお時間を作ってくださったので、その都度、宝来監督とお芝居の話をさせていただきました。

――どんなお話をしたんですか。

中﨑 それほど映像の経験がないので、気持ちの持っていき方や、リハと本番それぞれの心の持ちようみたいなことを教えてくださいました。私が気負い過ぎて、全部を全力でやろうとし過ぎていた部分があったので、そこの加減もアドバイスしていただきました。様々な弥生の感情を理解できるまで、何度もセッションさせていただき、宝来監督のおかげで安心して撮影に臨めました。

――クランクイン前のリハーサルはどんな内容だったのでしょう。

中﨑 メインキャスト4人で全部のシーンを掛け合いして、どんな感じなのかを確かめました。そのおかげで相手との関係性や雰囲気も分かりましたし、こういう風に演じてみようという選択肢も増えました。