コードとメロディを考えるだけでは思いを伝えきれず「編曲」を勉強

――アイドル卒業後はなぜ、シンガーソングライターに?

矢作 アイドル時代、メンバー同士の歌唱力を競うイベントなどを経験して、ソロで何かを表現することに興味がわいたのが理由でした。アイドル卒業後は芸能界を離れる予定でしたけど、当時お世話になっていた作曲家の先生が引き止めてくださって。すでに卒業を決めていたタイミングで「僕が教えるので、歌い続けてほしい」と言ってくださったんです。心変わりして「貯金を全部切り崩して楽器を買おう」とした時期に、先生が楽器屋さんと自宅に来てくださって、先生が若い頃に使っていたマイク、キーボードを置き土産に「これで頑張って」と励ましていただいてから、曲を作るようになりました。

――「貯金を全部切り崩して」とは、強い覚悟もあったんですね。

矢作 周囲の協力、応援に応えるために「買っちゃおう」と思ったんです。でも当時、銀行口座を管理してくれていた母とは大ゲンカしました。歌への意思を伝えたら「どうせすぐ飽きるからダメ!」と言われたので「自分のお金だからいいじゃん!」と反論して…(笑)。無事に説得できたので、よかったです。

――実際、作曲はどのように勉強したんでしょう?

矢作 実践的に勉強したのは、作曲家の先生にすすめられたスタジオレッスンです。参加者が決まったフレーズに全員それぞれメロディを付けて、一番いいメロディを投票で決める「コーライティング」と呼ばれる方法を経験しました。周りは一流の方ばかりでしたし、早く追いつこうとして自主的な勉強もして。初めて投票で選ばれたときはうれしかったです。朝から晩まで学んでいたので、作曲スキルがグーンッと上がったと思います。

――作詞作曲だけではなく、編曲も手がけています。

矢作 元々、曲の中に「どの音が入っているんだろう?」と、興味あるタイプではあったんです。直接のきっかけは、作曲家の先生に相談したことです。作曲をはじめたタイミングで「何をすればいいですか?」と聞いたら、「好きな曲を分解してみよう。自分が作りたい曲を選び、何の音が入っているかノートに書き出してみて」と教えていただいて。最初は、曲を繰り返し聴いてもピアノやギター、ドラムと単純な音しか分からなかったんですけど、だんだん、他の音も聴き分けられるようになりました。DTM(※デスクトップミュージック。パソコンなどの端末を使用する曲の制作手法)も覚えて、今では、レコーディング前のデモ音源も自作しています。

――編曲まで手がけるとは多彩ですし、こだわりの表れなのかと。

矢作 コードとメロディだけでは思いを表現しきれないし、曲を愛しきれず、ボツにすることも多いんです。自分で「これだ!」と思った曲は編曲も加えるようにしていますけど、本職の方のクオリティには追いつかないので、スタッフさんへイメージを伝える目的で作っています。今も勉強中ですし、いつかは「世の中に出る1曲」を自分だけで完成させたいです。