このタイミングで共演できたのがありがたかった
――石橋監督の演出はいかがでしたか。
唐田 「その場で起きたことに反応してください」という感じで、その雰囲気作りを石橋さんがしてくれて、現場で生まれるものを大事にしようという気持ちでみんながやっていました。本読みもあったんですが、がっちり決め込むのではなく、何となく役のテンション感だったり、喋り方だったりのすり合わせをして、あとは現場でやりましょうと。
――芋生さんは過去にも石橋監督の映画『左様なら』(2018)に出演しています。
芋生 夕帆さんは、事前に役のバックボーンなどを渡してくださって、空気感もばっちり作ってくださるので、その中にぽんって私たちがいると、自然と会話のリズムが生まれてくるんです。何も気にすることなく一旦やってみて、「もうちょっとこうしたらいいかな」というアドバイスを夕帆さんからもらうと、自然と役として動き出す感じがあって。台本の時点でちゃんと役が浮き上がっているというか。こういうバックボーンがあるから、こういう発言をするし、こういう動きをするんだというのが散りばめられている台本だからこそ、演じてみると自然と分かるんです。
――共演してみて、お互いに新たな発見はありましたか。
唐田 私自身、そこまで役者としての経験が多いわけではないですけど、芋ちゃんと共演していると、伝わってくるものが本物だなって感じるんです。その感覚は今も覚えているし、思い出すだけでもウルッときてしまうぐらいで、改めて芋ちゃんはすごいなって思いました。人と関わるのが怖くなっていた時期に共演できたのは、自分にとってすごくありがたかったです。
芋生 初めて唐ちゃんのお芝居を目の当たりにしたんですが、たとえば涙を流すシーンでも全身でお芝居をしていて、人としての深さが出ているなと感じましたし、すごくかっこよかったです。
――完成した作品を観て、どう感じましたか。
唐田 脚本の段階で、すごく愛のある優しい話でしたが、それが魅力的なキャストの方々によって、より豊かに色づいたなと感じました。
芋生 希はちゃんと自立しているし、逞しく生きているんだけど、脆いところもあって。その壊れそうな感じが、立体的になって伝わってきました。数年ぶりに加奈子と再会して、そこから希の人生が動き出して、どんどん魂が宿っていくのが、身体的にも現れていて、これぞ映画の醍醐味だな、素敵だなって思いました。