世界初となる画像生成AIとモーションキャプチャーを活用したアニメーション
――『死が美しいなんて誰が言った』を制作することになった経緯から教えてください。
中島良(以下、中島) 僕自身が企画プロデュースをして、自分の会社で制作した映画なんですが、10年以上前からゾンビ映画を作りたいと思っていて、実現した企画です。作品の企画書や脚本を書き始めたのは2020年でコロナ禍の自粛期間。仕事が全部止まって、もしかしたら再び作品を作れる機会がないかもしれないという時期でした。だったら自分発信で、自分のやりたいことを全部詰め込んだ作品を作ろうと、完成した企画書と脚本を文化庁に提出したら、支援を受けることになって。それを原資に、うちの会社でも自己出資をして、制作がスタートしました。
――オリジナル脚本ですが、原案があるんですよね。
中島 同名の詩集があるんですが、作者の廣津里香さんは1967年に若くして亡くなられているんです。映画の中で、その詩集の抜粋がありますが、社会に対する怒り、生と死への強い思いが書かれていて、コロナ禍の時期に読んで共感したんですよね。現在、コロナ禍は沈静化しましたが、どんどん社会状況は厳しくなっていって、生活も苦しくなっていますし、海外では戦争も起きている。廣津里香さんが詩を書いた当時と、今の世界はすごく似た状況だなと感じて、今この映画を見てくれるだろう人たちにも共感するところがあると思って、詩を引用させてもらいました。
――本作は世界初となる画像生成AIとモーションキャプチャーを活用したアニメーションとのことですが、具体的にどういうものなのでしょうか。
中島 画像生成AIは、テキストを打ち込んで画像を作るのではなく、ある画像を基に画像変換などをして、新たな画像を作ります。それに手描きの温かさ、柔らかさみたいなものを加えて、クオリティを上げていくんです。一般的なAIよりもマイナーではありますが、一部で注目を集めていて、日々ものすごい勢いで進化中です。
――『死が美しいなんて誰が言った』で基になっている画像は実写ですよね。
中島 そうです。簡単に言うと、一般的なアニメは手描きで、絵コンテがあってというのが、基本ですが、僕らのやり方はそうじゃないんです。僕は実写の監督で、俳優さんのお芝居を見て、カメラアングルを決めていくんですが、それと同じやり方をアニメーションでもやりたいなと思ったんです。なのでこのアニメの基となる実写を、モーションアクターの方にお芝居をしていただいて撮影しています。ゆくゆくは、他の実写監督たちでも再現可能で、誰もがアニメを作れるようになるためのチャレンジで、『死が美しいなんて誰が言った』はその証明でもあります。
――普通の実写では実現が困難であろう凝ったアングルも多いですよね。
中島 3DのVR空間の中で、iPadがカメラ代わりになって、自由に空間の中を行き来できるんです。それで、いろんなアングルをカメラマンが設定してくれて、撮影をしました。
――中村さんと真山さんを起用した経緯を教えてください。
中島 中村さんとは一度ドラマでご一緒させていただいたので、そのときの印象で、この方はアニメもできるし、実写もできる方だなと思いました。
中村 うれしい!
中島 真山さんはご紹介いただいたんですが、アニメの番組を持たれていて、お芝居もできる方だから、ぜひお願いしようと。
――中村さんと真山さんは、どういう段階でアフレコしたんですか。
中村ゆりか(以下、中村) ほぼアニメは完成していて、モーションアクターの方がお芝居した声が入った状態でした。
――初めて映像を見たときの印象はいかがでしたか。
中村 すごく綺麗で見応えがあって、キャラクターの生きている感じが伝わってきました。
――真山さんは過去にもアニメのアフレコ経験があります。
真山りか(以下、真山) アニメのアフレコといってもジャンルが違うなと感じました。一般的なアニメだとラフ画の状態でアフレコをすることが多いんですが、今回のアニメはキャラクター一人ひとりの表情がしっかり見えている。モーションアクターの方のお芝居という道標もありますし、アニメーションのキャラクターの動きという正解もあります。そこに自分が用意してきたものを擦り合わせる作業が必要で、そこが新しいなと思いました。
――お二人は初めて脚本を読んだときはどう感じましたか。
中村 登場人物たちがゾンビウイルスに蝕まれてゾンビになるまでの、ゾンビと人間の狭間の悲しみ、切なさが最大限に描かれていているなと感じました。キャラクターが発するメッセージと、廣津里香さんの詩が相まって、すごく惹かれました。
真山 文字だけで見ると、すごく激しい作品なのかなと感じました。ところが映像として見ると、殺伐とした世界において、感情をむき出しにするのではなく、その中で押さえつけられているものもあるんだなという印象で。より脚本の理解を深めてから、アフレコに臨もうと思いました。
――ゾンビ映画ですけど、ビジュアルで恐怖心を煽る作品ではないですよね。
中島 驚かせるタイプのホラーではなくて、ゾンビの悲しさや人間の生命のひと絞りみたいなのを描きました。