繊細じゃないと素晴らしいプレーに繋がらない

――どのように選手のインタビューに臨んだのでしょうか。

大西 僕が仕入れる知識は、雑誌だったりネットだったりに出ているインタビューをベースにしているので、それの焼き直しだったらツマらないじゃないですか。だから新しいものをどうやったら引き出せるかということで、今までインタビューされていない角度から、同じプレーを振り返るにしても違う聞き方をするなど、いろいろな工夫をしました。

――工夫した一例を教えてください。

大西 大会中、試合と試合の合間だと選手の方々もポジティブじゃないですか。だから、そこではワールドカップに臨むときに抱えていたプレッシャーを見せていない訳です。そのギャップこそ、皆さんが見ていない部分じゃないかと思って、今回はインタビューもシリアスなトーンで撮らせていただいて、彼らもそれに応えてくれました。どういうふうに彼らが代表に取り組んでいるのか、試合に臨むのか、どんな思いでワンプレーに命を賭けているのかという思いを引き出すことを大切にしました。

――事前にトムさんや選手とコミュニケーションを取る時間はあったのでしょうか。

大西 全くなかったです。こういう質問をしようと思っています、こういう作品にしようと思っていますという見立てが合っているかどうかを確認したくて、選手たちの取材の前に、コーチ陣にインタビューしたいという要望を出しました。ただスケジュールもタイトでしたし、チーム事情などもあって、最初にインタビューしたのは選手たちで、その後もランダムにインタビューせざるをえなくて大変でした。アドバイザーがいなかったことで、全方位から網羅して、選手や日本バスケの過去も勉強して、こういう角度で合っているかという感じでインタビューに臨んだんですが、結果的に間違っていなかったと思います。

――リサーチの大変さは理解できます。

大西 毎回、取材の前は入念に準備して、こういう方向で質問すればいいかなとイメージトレーニングをして、ここは聞きたいというシーンは映像を抜き出して持っていきました。しかも選手のチーム事情によっては、取材時間がミニマム15分だったんですよ。

――それは短い!

大西 だから、こちらが用意したものを見せられないときもありました。ただ12人の選手それぞれから、どこのシーンで信じる力を拠り所にしてプレーしたのか、フィンランド戦で18点差がついたときでも勝つことに1ミリも疑いがなかったかなどは必ず聞きました。スタッツに残っていない選手もいますが、彼らがスクリーンで下支えしているから、あの得点が生まれたという場面もあって。そういうところも勉強していくうちに分かったんです。どちらかというと僕も裏方だから、そういう選手に感情移入できるんですよね。日の目を見た選手たちだけではなく、スポットが当たっていない選手たちにも見せ場を作りたいなと思って。そこは苦心したところでもあります。

――大西監督の導き方もあると思うんですが、選手の皆さんが総じてしゃべりが上手だなと感じました。

大西 世界でバスケットをやっている方は地頭がいいなと思いました。あれだけダッシュしながら的確な状況判断をする訳ですからね。だから質問の意図を的確に把握して、答えてくれているなと。あと長年バスケの取材をしているディレクターなどにインタビュー映像を見せて確認してもらったんですが、「あんなにしゃべっている〇〇選手を見たのは初めてです」と仰っていましたし、広報の方も「あそこまでディテールを語っているのは初めて見ました」というのを聞いて、取材の方向性が間違っていなかったと答え合わせをしながら進めていきました。

――通り一遍の質問ではなかった証拠ですね。

大西 すでに表に出ているインタビューは押さえで確認しましたが、僕の趣旨はそこにないというのが分かってもらえたんだと思います。タイトルに「BELIEVE」と付けたのが皆さんの心に刺さったみたいなんですが、やっぱり自分たちを信じているんですよ。自分の練習量を信じているし、だからこそ勝てると信じているし、同じだけ長い時間練習してきたチームの仲間のことも信じている。何よりトムさんが自分たちを信じてくれるから、自分たちもそれを自信にできると、みんなが同じことを言うんです。

――選手たちの言葉が持つ力に感動しました。

大西 12人全員に言えるんですが、皆さん真面目で誠実。僕の聞き方が良かったのかどうかは分からないですが、確かに今まで出てこなかった本音を語ってくれているなと感じました。富樫勇樹さんにはキャプテンシーについて詳しく聞きましたが、シャイな方なのに、自分のキャプテンとしての役割を切実に捉えて、「それを全うしようと思っていた」という言葉を聞けたときは、改めて良いキャプテンだなと思いました。渡邊雄太さんを始め、選手それぞれがキャプテンを手厚くバックアップしていますし、プレーだけじゃなくて、そういう面でも良いチームだなと感じました。

――どの選手も大胆かつ繊細さも持ち合わせているなと思いました。

大西 みんな繊細ですよ。繊細じゃないと、あんなに素晴らしいプレーに繋がらないだろうし、みんながチームのことを思える人たちなんです。比江島慎さんが、「こんなにチームワークの良いチームはない。ずっとやっていたかった」と仰っていましたが、カーボベルデ戦(2023年9月2日)に勝利したとき、パリ五輪出場が決まったことよりも、また一緒にみんなとプレーできる喜びのほうが大きかったそうです。