舞台『弱虫ペダル』をきっかけにお芝居について深く考えるようになった

――キャリアについてお伺いします。この世界に入る前からお芝居に興味はあったんですか。

北村 それが興味を持ったことはなかったんですよね。いろいろと転がって、たまたま今ここにいるんですけど(笑)。

――人前に出るのは好きなほうでしたか。

北村 むしろ人前に出たくないなという気持ちが強くて、授業中にみんなの前で発表するのも苦手でした。高校時代はバスケ部だったんですが、試合の度に緊張していましたし、人がいっぱいいるところで見られる行為そのものが得意じゃなかったです。

――たくさんの舞台に出演している現在の北村さんからは想像もつかないですね。

北村 高校時代、文化祭で劇をやろうとなって、『西遊記』をやったんですが、「頼むからセリフがない役にしてくれ」と言って、一瞬で倒される門番をやりました(笑)。

――なぜ俳優を目指したんですか?

北村 目指したことは本当になくて、たまたまモデルをやることになり、そこから今の事務所の方に声をかけていただいて、「お芝居に興味がある?」と聞かれたときに、「ないですけど、機会をいただけるならやってみたいです」と答えたところから、お芝居の世界に足を踏み入れたんです。だからやっていくうちに、徐々にお芝居が好きになって、もっと知っていきたいという気持ちが強くなっていきました。

――それまで憧れていた職業などはなかったんですか。

北村 ぼんやりと保育士になりたい、車の整備士になりたい、レーサーってかっこいいなみたいなのはありましたが、それに向かって何かしたかと言われると、特にしてなかったです。ましてや俳優になるなんて夢にも思っていなかったです。

――お芝居を始めたのは幾つのときですか。

北村 21歳のときに、初めてお芝居のレッスンを受けたんですが、あまりにも嫌過ぎてサボっていました(笑)。事務所のアカデミーのレッスンだったんですが、年上から年下まで年齢はバラバラ。でも僕以外はお芝居をやりたくて集まっているので、ふらっと来てしまった自分は場違いなんじゃないかと思って、怖くなったんですよね。そしたら事務所の方から、「レッスンはやらなくていいから、現場で学べ」と言われて、舞台のお仕事を入れてもらったんです。いきなりプロの中に入れられて、レッスン以上に本気の人たちですから、最初は稽古に行くのが憂鬱でした……。ところが実際に稽古を受けたら、共演者の方々が優しくて、丁寧に教えてくださるんです。そこでお芝居って楽しいかもと思えました。本番の舞台を踏んだときも、お客様と一緒の時間を過ごして、こんなに楽しい場所があるんだと感動しました。

――高校卒業後は大学に通っていたんですよね。

北村 この世界に入るにあたって大学は辞めました。思いきりだけはいいんですよ(笑)。

――家族には反対されなかったんですか。

北村 基本的に自由に育ててもらったので、「やりたいんだったらいいんじゃない」みたいな感じで反対はされませんでした。

――俳優の前にモデルを経験して、それがお芝居に役立つ部分はありましたか。

北村 後々思い返してみると、写真を撮られているときもお芝居をしているんですよね。洋服を着て、どういうイメージで撮られるかを考えたときに、自然に演じているところがあって。それはお芝居を始めてから気づいたことです。

――ターニングポイントになった作品は何でしょうか。

北村 たくさんありますが、デビュー当時で言うと『弱虫ペダル』という舞台に出会えたことが大きかったです。お芝居云々ではなく、全力で生きている様みたいなものが間近で伝わってきて、それを自分自身もキャストとして経験したときに、俳優ってすごいなと。本番でもこんなに観る人の熱狂を生むんだと肌で感じて、そこからお芝居について深く考えるようになりました。

――ロードレースを舞台で表現するのも斬新でした。

北村 原作の『弱虫ペダル』は連載開始から読んでいたので、このマンガがこうなるんだみたいな驚きもありましたし、実際に演じていると、不思議と自転車に乗っているように見えてきて。想像力でこんなに世界が広がるんだというのも強く感じました。

――舞台で活躍する一方で、『仮面ライダーギーツ』(2022~2023/テレビ朝日)にニラム・仮面ライダーゲイザー役で出演して話題を呼びました。

北村 自分を知ってもらうという意味で影響力の大きさを感じましたし、より映像に力を入れていこうという思いが強くなった作品でした。『仮面ライダーギーツ』をきっかけに、舞台に足を運んでくださるお客様もいらっしゃいます。

――舞台に敷居の高さを感じていたけど、映像作品がきっかけで舞台に興味を持つ方も多いでしょうね。

北村 そうなんですよね。そもそも日常生活で舞台を知る機会は少ないでしょうし、チケット代やスケジュールの問題もあります。遠方の方はなかなか足を運びにくいですし、いろんなハードルがあると思うんです。そんな中で舞台、ミュージカルを知っていただく機会が増えるのは、役者としてもうれしいことなので、劇場でしか感じられない体験をたくさんの人に知ってもらうためにも、映像はもちろん、いろんなところで活躍できるようになりたいです。

Information

イッツフォーリーズ公演 ミュージカル『鉄鼠の檻』

【東京公演】
日程:2024年6月14日(金)〜24日(月)
会場:紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA

【大阪公演】
日程:2024年6月28日(金)〜29日(土)
会場:サンケイホールブリーゼ

原作:京極夏彦「文庫版 鉄鼠の檻」(講談社文庫)
上演台本・作詞・演出:板垣恭一
作曲・音楽監督:和田俊輔

出演:小西遼生 北村諒/横田龍儀(Wキャスト) 神澤直也 上田堪大
高本学 小波津亜廉 大川永 宮田佳奈 伊﨑右典
森隆二 吉田雄 近藤萌音 小原悠輝 藍実成 岡田翔大郎 山下真人
身内ソラ 光由 志賀遼馬 宮村大輔
松原剛志 福本伸一 内田紳一郎/畠中洋 ほか

主催・企画・制作:オールスタッフ / ミュージカルカンパニー イッツフォーリーズ

舞台は昭和28年初春。古物商を営む今川雅澄は、明慧寺の僧侶、小坂了稔から〈世に出ることはあるまじき神品〉を買い取って欲しい、との依頼を受け、箱根山中の「仙石楼」に投宿する。食客として逗留していた老医師、久遠寺嘉親と碁を打つ日々を送りつつ、了稔からの続報を待つ今川。しかし、そんな彼の前に突如現れたのは、座禅を組んだような姿勢のまま死んでいる、小坂了稔の遺体であった。周りに足跡はなく、不可解な現場に旅館は騒然となる。一方、時を同じくして箱根を訪れていた憑物落としの古本屋、「京極堂」こと中禅寺秋彦と、その幼馴染で陰気な作家、関口巽も事件に巻き込まれてしまう。更に、神奈川県警の横暴な捜査に業を煮やした久遠寺が、探偵の榎木津礼二郎を呼んでしまったことにより、榎木津も事件に関わることに。やがて一行は、仏弟子たちが次々と無惨に殺される謎の巨刹・明慧寺を舞台にした「箱根山連続僧侶殺害事件」の只中に飛び込んでいくこととなるのだった。

公式サイト
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北村諒

1991年1月25日生まれ。東京都出身。モデル活動を経て、21歳で俳優デビュー。『弱虫ペダル』、『刀剣乱舞』、『おそ松さん』、『僕のヒーローアカデミア』、『怪盗探偵 山猫 the Stage』など、数多くの人気舞台に出演。主なドラマ出演に『仮面ライダーギーツ』(テレビ朝日)、映画出演に『爪先の宇宙』(2017)、『映画刀剣乱舞-継承-』(2019)、『仮面ライダーギーツ×リバイス MOVIEバトルロワイヤル』(2022)など。

PHOTOGRAPHER:TOSHIMASA TAKEDA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI,HAIR&MAKE:仲田須加,STYLIST:ヨシダミホ