野球場のシーンで降った予定外の雨が心情を代弁してくれた

――映画『ペテン狂想曲』のオファーがあったときのお気持ちからお聞かせください。

武本悠佑(以下、武本) 映画出演が2本目で、『犬、回転して、逃げる』(2023)以来だったので、久々の映画ということで緊張しました。また今回は検事役で、あまり法律について考える機会もないので、自分に検事の貫禄を出せるのか不安でした。

――武本さんが演じる我妻泰史は、過去に因縁のある弁護士・坂木誠人を目の敵にするヒール的なキャラクターです。

武本 あまり自分では悪役タイプではないと思っていたんですが、キャスティングしてくださった方から、「くずで悪い奴をやってほしい」と言われたので、どこか当てはまる部分があるのかもしれません(笑)。

――初めて脚本を読んだときの印象はいかがでしたか。

武本 キャラクターで言うと、我妻は判断基準が自己中心的で、「自分最高!」みたいなところから、どん底に落ちる。ただ頭が良くて、クールで判断力もある役だからこそ、あまり最初の登場から感情の揺れを出しちゃいけないなと。クライマックスのシーンに持っていくまで、どういう風に演じるかを考えるとワクワクしました。

――かなり撮影期間がタイトだったそうですね。

武本 スケジュールの都合もあり、短期間で出演シーンを全部撮り切らなきゃいけないのはプレッシャーでしたし、舞台と違って、事前のレッスンや稽古などで共演者の方々との関係性を作る時間もないので難しかったです。そんな状況の中、途中参加でしたが撮影に入ると、すごく空気感が良くて、同じ方向を見てお芝居ができていたので、しっかりと心が通っているなと感じましたし、初めましての役者さんが多かったんですが、一日で仲良くなることができました。

――映像ならではの演技ということで意識したことはありますか。

武本 舞台は奥の奥までいるお客さん全員に訴えかけるようなお芝居が基本なので、全身を使ったオーバーなリアクションになるんですが、映像は自分のことを抜いているカメラへのアピールなので、当たり前なんですけど大げさにならないようにしました。我妻は物思いに耽ることが多くて、クライマックスまで相手に対して直接言葉をぶつけることもないので、そこは強く意識しましたね。

――雨の降る野球場のベンチで坂木と再会する、我妻が初めて登場するシーンは印象的でした。

武本 初めて登場するシーンですが、印象を強く残すみたいなことをしたくなくて。主役と並んだときに、「この人はどういう人なんだろう」と謎めいた雰囲気で、佳境に入るにつれて、心の内に秘めているものが分かるようにしたかったんです。だから野球場のシーンは個人的にも思い入れがあります。

――最初から雨は狙っていたんですか。

武本 もともとは晴れの予定で撮影に入ったんですが、たまたま雨が降ったんですよね。その雨が我妻の心情を代弁しているようで助けてもらいました。

――その他に印象的なシーンは?

武本 ゴミ捨て場だった廃墟で撮影したクライマックスです。電気もガスも通っていなくて、3月で気温もマイナスに近い中でやっていたので過酷な現場でした。ストーリー的にも、上にいたはずの人間が、別の人間に一杯食わされるなど、めまぐるしく立場が変わるシーンです。アニメのように熱い展開の中にクスっと笑える要素もあるんですが、やり過ぎると完全な喜劇になってしまうので、そこの塩梅に苦戦しました。

――松本了監督の演出はいかがでしたか。

武本 お芝居に対して熱い方で、妥協せずに、一人ひとりに対して自分の思っている演出を熱く伝えてくださるんです。時間がない中、できるかどうか分からない状況でも、やりたいことにトライしていく姿勢が素晴らしかったです。

――完成した作品を観て、どんな感想を抱きましたか。

武本 正直、もっと味のあるお芝居をしたかったなという、自分の課題や反省点ばかりが目立ちました。どんどん気持ちを高めていって、ラストで世の中の不条理、普段は目に見えない裏社会の汚さなどに対する不満をぶつけるというシーンは、また違った気持ちの持って行き方もあったのかなと。もっと経験を積んで、さらに力を付けて、たくさんの映像作品にチャレンジしたい気持ちが強くなりました。