従来の映画やドラマとは違うリアリティに溢れた弁護士
――『ペテン狂想曲』が映画初主演になりますが、オファーがあったときはどんなお気持ちでしたか。
林光哲(以下、林) 舞台をメインに活動してきたので、映像は狭き門だと思っていました。しかも主演ということで驚きもありましたし、うれしい反面、映像ならではの演技に対する不安もありました。ずっと舞台をやっていると、表情や体の使い方などが映像向きじゃなかったりするんですが、映像でも舞台的な表現をよしとする作品もあります。それを決めるのは監督なんですが、どちらの方向性かを探りながら役作りに臨みました。
――初めて脚本を読んだときの印象はいかがでしたか。
林 たくさんのキャラクターが登場する群像劇なんですが、それぞれの関係性が明確で面白かったです。僕が演じる坂木誠人は弁護士で、とある事件に関わることになるのですが、その際に法律の抜け穴を駆使します。そういう映画やドラマって大袈裟な展開になりがちですが、坂木は小さな抜け道を見つけて、それがリアルで新しいなと思いました。脚本も手掛けた松本了監督は、過去に弁護士を志して、司法試験も受けていたらしいんです。だからこそ説得力のある脚本になっているんですよね。
――坂木はどんなキャラクターでしょうか。
林 かつては弁護士として優秀だったんですが、調子に乗って落ち落ちぶれてしまい、弁護士資格も剥奪されてしまう。すぐに調子に乗ってしまうダメなところもあるけど、飾り気がなくて、茶目っ気があって、人から愛されるというか、放っておけないタイプですね。
――コメディ要素の強いシーンも多いです。
林 本読みをしたときに、監督が「そんなに重苦しい話にしたくない。肩肘張らず観ていられるような作品にしたい」と仰っていたので、そこは意識しました。
――どんな役作りをしましたか。
林 割と自分自身に近い人物像だなと感じたので、あまり作り込まず、自分に近いベースでやってみようと思いました。その上で監督から意見や弁護士に関する知識をいただきながら作り上げていきました。あとクランクインの前に、霞が関に行ったんです。映画に裁判シーンがある訳ではないんですが、少しでも何かの役に立てばいいかなと、5件ほど裁判の傍聴をして。そのときに淡々と終わる裁判から、感情的になる裁判まで、いろいろな裁判を傍聴しました。
――過去にも役作りのために、実際の現場に行くことはあったんですか。
林 実際に触れられる場所があるならば、何かに繋がればいいなと思って行くことがあります。それがどう役に立つかは分からないし、役に立たないときのほうが多いんですけどね。
――今回、過去に共演経験のある方はいらっしゃいましたか。
林 松田将希くんは昨年舞台でご一緒しましたが、あとは初めましてです。
――撮影日数は4日間とタイトだったそうですが、キャストとのコミュニケーションはいかがでしたか。
林 今回は一人ひとり個性があって、面白い方ばかり。みんなフレンドリーで、休憩中や移動の車中でも和気あいあいとした雰囲気でした。僕は人見知りが激しいほうなんですが、短い期間で気兼ねなく喋れるのは珍しいことなので、波長が合ったんだと思います。
――監督の演出はいかがでしたか。
林 監督は自然な演技を求められていたんですが、時間がない中で、丁寧に、的確に説明してくれるんですよね。今回は僕も含めて舞台ベースの俳優が揃っている中、「こうやったら映像的に映える」といったことを、ご自身の経験に則して説明してくれるので勉強になりました。最初は監督の言う通り演じつつ、どこか半信半疑なところもあったんですが、実際に映像で観ると「なるほどな」と思わせられることばかりでした。
――特に大変だったシーンは?
林 地方で撮影したクライマックスのシーンです。以前はごみ処理場だった廃墟で撮影したんですが、電気が一切通っていないんですよ。3月とまだまだ寒い時期だったんですが、ストーリー的にみんな薄着で。そんな環境で時間もない中、バンバン撮影していくのが大変でした。