子ども心みたいなものは忘れずにいたい
――小学生で俳優デビューしていますが、どういう経緯で、この世界に入られたんですか。
川島 知人が事務所の方の知り合いで、その関係で事務所に所属することになったんです。子どもの頃はテレビをあんまり見ていなかったので、「芝居って何だろう」というところから始まって、渡されたセリフを覚えてカメラの前で話す、それを淡々とこなしていました。正直、やらされている感だけでしたね。ありがたいことに小学生のときはオーディションで決まることが多かったんですが、高学年になると周りのレベルも上がってくるので、落ちることが多くなって、悔しさを感じるようになったんです。それで「絶対に受かりたい!」という気持ちが強くなりました。
――悔しさが気持ちに火をつけたんですね。本気でお芝居に取り組もうと思ったきっかけは?
川島 中学生のときに仕事を辞めるか辞めないかで迷っていた時に、Huluのオリジナルドラマ『フジコ』(2015)で尾野真千子さんと共演していただいたんです。そのときに蹴られたり、虐待されたりする役を体当たりで演じている尾野真千子さんを見て、私もそれに応えたいという気持ちが芽生えて。お芝居に、もっと真剣に取り組みたいと思うようになりました。ただ他の子役と比べると、本気でお芝居に取り組もうと思った時期が遅いんですよね。演技レッスンもちゃんと受けたことがなかったので、成長する術も分からず、ただただ「やりたい」という気持ちだけで進んでいっては、くじけることの繰り返し。中学1年生から3年生の間は模索する日々が続きました。悩んでいた期間はすごく長かったと思います。
――高校生になってから、そういう思いは吹っ切れたんですか?
川島 これからどうしようと思っていたときに、ちょうど映画『ある船頭の話』のオーディションで主役に選んでいただいて、そこで初めて演技レッスンを受けたんです。「こういうアプローチがあるんだ」と選択肢が増えて、そこから視野が広がり、少しずつお芝居のスキルを高めていけるようになりました。
――大学進学はいつくらいに決めたんですか。
川島 高校3年生のときに、周りが大学進学を選ぶ中、進学するか進学しないかで悩んでいたら、母から「やりたいことだけに視野を向けていると、そこだけの世界になってしまうから、違う世界を見てみたら?視野を広げると、自分の引き出しもどんどん作っていけるようになるんじゃない?」と言われて、じゃあ進学しようかなって。
――大学に通って良かった部分はありますか?
川島 いろんな考えの人がいるなと感じました。高校生のときのコミュニティと大学でのコミュニティは全く違うんですよね。やりたいことがハッキリしている人たちの意見を聞くと勉強になるし、同世代なのにそこまで考えているんだと刺激にもなります。それに大学に行った人と行ってない人の経験の差みたいなものは、どこかで出るんじゃないかなと思っていて。たとえば大学生を演じるとしたら、実体験を基に役についてのお話しができるので一つの武器ですよね。あと社会人になった友達から、会社や上司の愚痴を聞くのも役作りの上で参考になります。当たり前のことですが、いろんな業種があって、いろんな人たちがいるからこそ社会が成り立っているんだなと改めて感じています。
――今年3月で大学を卒業して、何か変化はありましたか。
川島 周囲の環境が変わったので、平日に遊びに誘っても断られるみたいな(笑)。「そっか、みんな大人になっていくんだな」と置いて行かれたような気持ちもありつつ、子ども心みたいなものは忘れずにいたいです。
Information
舞台『神話、夜の果ての』
2024年7月5日(金)~7月14日(日)
東京芸術劇場シアターウエスト
東京都豊島区西池袋1-8-1)
出演:坂本慶介 川島鈴遥 田中亨 杉木隆幸 廣川三憲
作・演出:詩森ろば
青年は目を覚ますと、拘置所にいた。自分がなぜここにいるのか、自分が誰なのかさえ青年はわからない。そばにいるのは、精神科医と夢とも現実ともわからない少女である。ある日、精神科医の元を弁護士が訪ねてくる。国選で青年の弁護士となった彼は、保護室にあり「心身喪失状況」の青年と面会することもできていない。4人の会話は迷走し、もつれ、記憶と現在と精神を行ったり来たりしながら、青年の苦しみと、結果犯してしまった犯罪のかたちが浮かび上がる。
PHOTOGRAPHER:TOMO TAMURA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI,HAIR&MAKE:KOTOMI GOSHIMA,STYLIST:TAKUMI NOSHIRO