肌で感じるということを探求していきたい

――石井監督が、脚本を共作したいながききよたかさんとの対談で、「最終的には自分の直感で、『葉子とは何者なのだ』ということを意識して演じる白本彩奈さんと共闘して描くことにしました」と仰っていました。

白本 そう言っていただけるのは光栄です。確かに現場でも石井監督と細かいお話をさせていただきながら葉子を作っていきました。私と石井監督のどちらかが倒れてしまったら葉子も倒れてしまうようなところがあったように思います。

――石井監督の演出はいかがでしたか。

白本 リハーサルのときから仰ってくれていたのは、その時々で、内から出るものを出してもらえればいいと。特別な表現をせず、ありのままを出してほしいということでした。だからお芝居について直接指導されたことは記憶にないんですが、このシーンがどういう位置付けで、どういう役割を持つかなどをお話ししながら作っていきました。葉子は箱男、ニセ医者、軍医(佐藤)それぞれと関りを持つので、その人と葉子がいる意味や映画での見え方を、石井監督とすり合わせていきました。

――箱男、ニセ医者、軍医それぞれで、葉子の接し方も違いますよね。

白本 私の中で“女性”と“母性”を両立したような人物をテーマにしていたので、この瞬間はどっちなのかというのはギリギリまで考えていました。

――箱男と接するときは母性を感じさせました。

白本 その通りです。ニセ医者に対しては女性の部分が強く出ています。もちろんシーンによって変えている部分もありますが、その二極化みたいなものは、こだわって演じていました。

――随所に光が効果的に使われていたのが印象的でした。

白本 石井監督は、光や色彩、衣装に至るまで、細かなこだわりを貫いていらっしゃいました。それを見ながら、私も葉子の細かい部分にまで気持ちを配ろう、心を置こうという風に、石井監督の背中を追いかけていたような感覚がありました。

――カメラワークも独創的でしたが、それを意識することはありましたか。

白本 カメラテストのときに、そういうことも想定しないといけないなと思った記憶はあるのですが、ありがたいことに本番では、カメラにしても、照明にしても、あってないような感じでそこにいてくださったので、そこまで演じる側は意識することはなくて。そこは石井監督も意識されていらっしゃって、そこにあるものとして存在してほしいということだったので、良い意味でスタッフの皆さんの苦労や努力には気づかなかったです。

――ロケーションはどの辺が多かったんですか。

白本 病院のシーンは茨城県の笠間市で、最後のほうに出て来る路地裏は三軒茶屋です。先日、別の作品で笠間市に近い場所に行ったのですが、『箱男』のことを思い出して、「ちゃんとやってるか」と石井監督の声が聞こえるような気がして、身が引き締まる思いで役に取り組みました(笑)。

――今回、白本さんはヌードに初挑戦しています。現場にはインティマシー・コーディネーターの方も参加していますが、脱ぐことに葛藤はなかったのでしょうか。

白本 オーディションを受ける段階で分かっていたことなので、多少の葛藤もありつつ、その場になってみないと実感が湧かないこともあって、未知な世界に飛び込むワクワク感もありました。

――カメラの前で脱ぐことの不安さや心細さみたいなものはなかったんですか。

白本 “脱ぐ”ということにどんな意味があるのかを自分の中で十分に考えていましたし、早くから専門家に協力していただいてボディーメイクに取り組んで、大好きなお酒も控えていたので、脱ぐということには抵抗はなかったです。実際に現場に入って、石井監督、永瀬さん、浅野さんと話していく中で、葉子が裸になることは重要な意味を持っていて、欠かせないものだというのは自分の中に刻まれていたので、迷うことはなかったです。

――本番はいかがでしたか。

白本 実際に服を脱いでみると、物理的に肌で人を感じたり、言葉を感じたりが新鮮でした。相手の目を見たり、声を聞いたりするだけではなくて、肌で感じる感情や、その場の空気というものがあるんですよね。実際に経験してみないと得られない感覚だったので、今後も生かしていきたいなと思いますし、さらに肌で感じるということを探求していきたいです。