数あるバンド映画の中でも、こんなに渋いバンド映画はない

――本作はパンクバンドの苦悩と葛藤を描いた物語です。普段パンクロックはお聴きになりますか?

北村有起哉(以下、北村) 僕は年齢的にちょうどザ・ブルーハーツ世代ですから、昔から(甲本)ヒロトさんの曲はずっと聴いていました。中学生当時にあるCMで「人にやさしく」が使われていて、それは今でも強烈に覚えてますね。

――ご自身でバンドをやろうと考えたことはありましたか?

北村 それはなかったですけど、舞台でヘヴィメタルバンドのベースをやったことならあります。劇団☆新感線の「メタルマクベス」で。その時もヘヴィメタなのに僕だけパンクっぽかったらしいんですよ、様子が(笑)。おそらくブルーハーツの影響だと思います。

――では、亜無亜危異については?

北村 たいへん失礼ながら世代的に知らない部分があったので、自分なりに調べました。日本のパンクバンドの中でもカリスマ的な存在ですし、思い入れのあるファンの方も多いでしょうから、なるべく失礼にならないようにと思って。何より、メンバーだったご本人が現場でメガホンを取っていますしね。「違う、そんなんじゃなかった!」って言われたらどうしようもないので。

――本作への出演が決まった時は、どのように感じましたか?

北村 パンクバンドの物語といっても年齢を重ねてからの話だったので、そこは無理せずできそうだなと。ちょっと走ったら息切れするくらいですから(笑)。ただ、実際にやってみると、台本を読んでストーリーを知っていたにもかかわらずグッと来るものがあって。そこは予想外でしたね。音楽の力もありつつ、僕以外のみんなの芝居を見てあらためてジンとしました。哀愁に溢れているんだけど、不思議と勇気が湧くというか。これまでにもバンド映画はたくさんありましたが、こんなに渋いバンド映画はないなって。

――北村さんが演じたハルは、亜無亜危異のギタリストだったマリさんがモデルになっています。演じる上で気をつけていたことはありますか?

北村 ハルは自分が起こした傷害事件でバンドが活動休止になって、そこからいろいろな葛藤を抱えるようになります。でも、そこで完全に他のメンバーを拒絶して殻に閉じこもるのはちょっと違うかな、というのは考えました。どういう状況になってもみんな昔からの連れなのは変わらないし、仲間だっていう想いは絶対にあったはずなんですよ。だからこそ、グダグダ言いながらも再結成の誘いを受けた。おそらくマリさんもそういう気持ちだったんじゃないかと。実際、ブランクがある中で再びステージに立つというのは、ご本人もかなり怖かったと思います。

――監督の藤沼伸一さんは亜無亜危異のメンバーであり、今回が監督初挑戦です。お会いしてみていかがでしたか?

北村 本当に初監督ですか?というほど落ち着いていらっしゃいました。カメラさんや助監督さんともしっかり信頼関係を築いていて。非常に穏やかで、優しく見守ってくださる方でした。

――役者さんへの演出については、いかがでしょう?

北村 僕に関して言うと、マリさんの人柄として「いつもニコニコしてたな」とか「何か知んないけどモテたんだよな」とか、そういう芝居のヒントになるようなものは教えていただけました。ただ、人柄を全部聞いてしまうとそれをなぞってしまうので、僕が想像して膨らませていく余白を残しつつ、エッセンスだけ与えてくれる感じでしたね。ギターを弾くシーンについては、最初から僕がそんなに弾けないってことを分かった上でオファーいただいていたので、あらかじめカメラワークも全部決めていたみたいです。さすがギタリストですよね。