天才はみんな、どこか破滅的な部分を持っているのかもしれない

――本作で共演した永瀬正敏さんの印象について教えてください。

北村 ここまでしっかり共演するのは初めてだったんですが、いろんなものを内に秘めているというか。それはやっぱり、あの方の生きざまがなせる技ですよね。何せ僕が夢中になって映画を観始めた時代のトップランナーですから。映画界に新しい風を吹き込んだ方ですし、本当によく出演作を観させていただいていました。今でも当時の雰囲気というか、趣は全く変わっていませんでした。

――永瀬さんは映画に対するスタンスが、昔から一貫しているイメージです。

北村 そうですよね。ご一緒してみるとすごく気さくな方で、現場でいろんな雑談をさせてもらってうれしかったです。もっともっとお話ししたかったくらい。永瀬さんが乗ってる車の話とか、「燃費ってどのぐらいなんですか」とか(笑)。

――ボーカルを演じた渋川清彦さんの印象はいかがでしたか。

北村 渋川清彦くんは弾けた役でしたけど、おそらくちゃんと調査をして、彼の計算のうえで演じていたと思います。狂言回し(※物語について観客の理解を手助けする役割のこと)じゃないですけど、ムードメーカー的な立場を自覚しつつやってくれていたので、そこは安心でした。今回は特にみんな寡黙な感じの役柄だったので本当に助かりましたよ、ああいう風に場を埋めて表現してくれて。

――ハルの恋人役を演じた有森也実さんも素晴らしい演技でした。

北村 そうですね。「この人なんで、こんな俺を好きになっちゃったんだろう」って思いましたよ。

――(笑)。

北村 恋人が事件を起こして、普通だったらすぐ別れそうなのに、「私が一生面倒見るからね」なんて。マリさんには何か母性本能をくすぐるものがあったんでしょうね。そういえば監督がおっしゃっていたんですけど、マリさんはいわゆる愚連隊(※不良少年の集団)の方にものすごく人気があったんですって、面倒見が良くて。

――後輩というか、年下の若いファンが多かったのでしょうか?

北村 はい。そういった方にも自然に接していつの間にか仲間になっちゃうから、慕ってくる人たちがたくさんいたそうです。別に盛り上げ上手でも場を仕切るわけでもないけど、本当に計算のない天真爛漫なところがあって、みんなついて行っちゃうと。

――ミュージシャンには表裏一体の魅力を持つ方が多い気がします。

北村 映画だと『不滅の恋』でベートーヴェンをゲイリー・オールドマンが演じていたり、『ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ』ではエミリー・ワトソンが伝説的なチェリストを演じていたりするんですが、だいたいみんな破滅的なんですよね。でも放っておけないっていう。天才ってみんな、どこかそういう部分を持っているのかもしれません。

――そういった生き方に憧れはありますか?

北村 そうですね、特に20歳前後の頃は自分探しにいっぱいいっぱいで、常に悶々としていて。芝居の基礎を学ぼうと養成所や専門学校に通いつつ、金がないからアルバイトもして。周りの学生を見て「良い大学出て良い会社に勤めてそれでゴールって、そんなんでいいのかよ」なんて思ったりしながら。なので、ハルのような生き方に憧れるというか、惹かれる部分はちょっとありますよね。

――本作を通じてそうした人生を体現できましたか?

北村 まぁまぁ……(笑)。でも、基本ハルはウジウジしてますから。それこそ天才と呼ばれるロックスターの中には、シド・ヴィシャスやカート・コバーンのように早逝する人が多いですけど、ハルは映画の最後、死神から「お前、タイミングを逃したな」みたいなことを言われるんですよ。なかなかすごい台詞だなって、ゾクゾクしました。