『フリースタイルダンジョン』で味わった敗北感

――2020年4月1日にリリースした自主制作の1stアルバム『WCMTW』は、どういう経緯で制作しようと思ったのでしょうか。

Novel Core  ジブさんのところで3年ぐらい頑張って、ちょくちょく曲を出しながらライブのブッキングをいただいたり、GRAND MASTER主催のライブやジブさん主催のSUMMER BOMBに出たり。そういう経験を積んで、二十歳になるタイミングで、そろそろ自分で何かしらアクションを起こさなきゃいけないと思って、1stアルバムの制作に着手しました。Abema TV『オオカミちゃん(月とオオカミちゃんには騙されない)』の出演が決まったタイミングでもあったので、ちゃんと自分のやるべきことをやらないといけないと思ったんです。

――自ら制作に着手していないと、さらに1stアルバムのリリースまで時間がかかっていた可能性があったんですね。ちなみにライブに関して、Zeebraさんからアドバイスをもらうことはあったんですか。

Novel Core  発声などに関してのフィードバックはあったんですが、ライブに関して何か言われたことはないです。ただ強く記憶に残っていることが一つあって、リリースした楽曲をお客さんの前でパフォーマンスするという経験は『フリースタイルダンジョン』が初めてで。テレビ収録ではありますが、普通にお客さんのいるSTUDIO COASTで「Metafiction」をパフォーマンスさせてもらったんです。忘れもしないのが僕の前にWILYWNKAくんがライブをやって。ライブが上手なアーティストなんで、めちゃめちゃお客さんをぶち上げていったんです。今でこそバトルが好きな人たちと、ヒップホップミュージックが好きな人たちには、それほど差異がないと思うんですが、当時のバトル現場は、マジでバトルしか興味ない人たちが多かったんです。『フリースタイルダンジョン』に来ているお客さんの8割はバトルが終わって、アーティストがライブを始めても棒立ち、地蔵みたいな感じで全然盛り上がらない、手も上がらない状態だったんです。

――そんな中でもWILYWNKAさんのライブは盛り上がったと。

Novel Core  WILYWNKAくんはガンガン煽って、どうにかお客さんの手を上げさせて、さらにジャンプさせたり、しゃがませたり、いろいろ体の動きを使ったライブをやったんです。『フリースタイルダンジョン』やバトルの現場で、ここまでお客さんが手を上げたりジャンプしたりを観たのは初めてで。その様子を裏のモニターで観て、超緊張した状態でライブに臨んだんですが、当時の自分ができることって「ハンズアップ!」って言うぐらい。路上でやっていたことが全く通用しなくて、お客さんは棒立ちでシーンとしたまま終わったんです。

――考えるだに恐ろしい状況ですね……。

Novel Core  その翌日、事務所に呼ばれて、ジブさんから「まだデビューのタイミングで初めてのことだし、『フリースタイルダンジョン』の収録という特殊な環境だし、いろいろ難しかったというのは百も承知で言うと、昨日のライブは勿体なかったよね」と言われて。「そうっすよね。俺もそれは感じました」と答えたら、「ああいう現場でもWILYWNKAみたいに盛り上げられるアクトもいる。お客さんの雰囲気に合わせて、臨機応変に言葉を出して煽って盛り上げて、ちゃんと自分の持ち時間で会場をロックして、自分の空気にして帰ると。そういう意識とパフォーマンス力はCoreもつけないといけないよね。その力がないとラッパーとして駄目だから」みたいなことを言われて、すごくへこんで帰ったのを覚えています(笑)。それで「まずは現場の数を踏もうね」ということで、ちょくちょくライブに出してもらっていたんです。そこからは人のパフォーマンスを見て、良いと思ったところを盗んで、ここは良くないと思ったところは省いてという作業を永遠に繰り返していました。

――当時、特に参考にしていたアーティストはいますか?

Novel Core  ライブが上手いなと思ったアーティストの良いところは片っ端から盗んでいました。例を挙げるとするならANARCHYさんは、初めてライブを生で観た瞬間から心を掴まれました。体の使い方やステージの使い方なども含めて本当に格好良くて、すごく刺激になりました。

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Novel Core

東京都出身、23歳。ラッパー、シンガーソングライター。 SKY-HI主宰のマネジメント / レーベル “BMSG” に第一弾アーティストとして所属。 高いラップスキルと繊細な歌唱技術を保有する一方で、決してジャンルに縛られることのない特有のスタイルがファンを集め、アルバム作品が各チャートで日本1位を獲得するなど、メジャーデビュー後の短期間で爆発的にその規模を拡大。 Zeppを中心とした大型のライブハウスを周遊する全国ツアーや、日本武道館での単独公演を完全ソールドアウトで成功させ、来年2月には自身初のアリーナ単独公演が決定するなど、飛ぶ鳥を落とす勢いで躍進を続ける新世代アーティスト。 ミュージシャンとしての存在感を確かなものにする一方で、FERRAGAMOやETROなど、トップメゾンのモデルに起用されるなど、ファッション業界からも注目を集めている。

PHOTOGRAPHER:TOSHIMASA TAKEDA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI