何かあったときに諦めたくない、自分と向き合おうという気持ちが強い

――映画『カフネ』は当時、大阪芸術大学在学中だった杵村春希監督による初長編作品で、大阪芸術大学を中心とした25名の大学生チームによる学生映画です。主人公の瀬川澪役は2022年の春にオーディションで決まったそうですね。

山﨑翠佳(以下、山﨑) たまたまオーディションサイトで見つけたのですが、掲載されていた企画書と脚本の一部を読み、どうしても参加したいと思って、応募しました。舞台となった三重県熊野市の写真も掲載されていたんですが、綺麗な街並みに惹かれて、「ここに行ってみたい!」という気持ちになりました。

――どんなオーディションだったのでしょうか。

山﨑 集団ではなく、個別のオーディションでした。杵村監督を含めて、みなさん大学3年生だったんですが、全員スーツを着ていらっしゃって、年齢を感じさせない大人っぽい雰囲気で。部屋に入った瞬間、総立ちで「よろしくお願いします」と温かい雰囲気で迎えてくださいました。5人ぐらいのスタッフさんから質問を受けて、演技のことだったり、自分自身のことだったりをお話ししたんですが、丁寧に向きあってくださった印象があります。自分で脚本の中からシーンを選んで演じるというのもあって、私は澪が自分の気持ちを初めて言葉にするシーンを選びました。

――その時点でストーリーはほぼ固まっていたんですか。

山﨑 大まかな流れと、澪が妊娠するというところは決まっていたのですが、たとえば澪の親友・夏海のキャラクターや関係性などは後になって変わりました。

――クランクインする前にリハーサルなどはあったのでしょうか。

山﨑 東京で4日間、本読みをする期間がありました。監督から「電話帳を読むようにやってください」という指示があって。癖をつけずに、表情を無にして、本読みをすることで、言葉の持っているニュアンスや自分の観念を全部そぎ落としたんです。初めてお芝居を合わせたのは熊野に行ってからですが、その本読みがあったことによって、相手の声色や表情をよく見て、自然に演技することができました。

――熊野にいた期間はどれぐらいだったんですか。

山﨑 2週間です。前日に現場入りしたんですが、地元の神社に「2週間お願いします」とお参りしに行きました。熊野は想像以上に綺麗な街で、目の前に悠々と広がっている海が美しかったですし、自然の偉大さみたいなものを感じました。2週間という短い期間でしたが、もう帰りたくないと思うぐらい素敵なところでした。

――完成した脚本を読んだ印象はいかがでしたか。

山﨑 より澪の言葉が凝縮されていて、メッセージ性の強い言葉が紡がれているなと感じました。ちゃんと澪の気持ちを理解して、改めて「やるぞ!」という気持ちにもなりました。

――澪に共感するところ、共通する部分などはありましたか。

山﨑 澪は高校3年生で妊娠しますが、逃げないで、ちゃんと自分と向き合い続けるんですよね。事象は違いますが、私も何かあったときに諦めたくない、自分と向き合おうという気持ちが強いので、そこは共感しました。あと澪は周りの人にすごく助けられるのですが、私も周りの方に支えてもらっているなと感じることが多いので、そこは共通しているところだなと思います。

――66分24秒という中編映画ですが、全編に渡って、澪を始めとしたメインキャラクターにじっくりと寄り添っているなと感じました。

山﨑 熊野にいると時間の流れがゆっくり感じられました。そこで生きている彼らや彼女たちのスピード感がそのままカメラに収まったのかなと思います。

――杵村監督の演出はいかがでしたか。

山﨑 そこまで具体的な指示はなくて、俳優それぞれが持ってきたお芝居を大切にしてくださるんです。行き詰まったときにはアドバイスをしてくださいますし、いかに個々のお芝居をより良くするかという演出をされていた印象があります。

――夏海を演じた松本いさなさんとのコンビネーションが素晴らしかったです。

山﨑 松本さんが熊野に滞在していた期間は、撮影で使った家で一緒に過ごしていたんです。毎日、「今日は私がお風呂を沸かすから」とか、「ごはんを一緒に食べよう」とか、合宿みたいな生活をして、すごく楽しかったんですよね。そういう時間があったからこそ、澪と夏海の関係性を築けたのではないかなと思います。