ラブレター代筆屋では意外な相談も“自分に手紙を”と願う依頼者の背景

――小林さんの会社「デンシンワークス」のサイト上で、ラブレター代筆屋として書いた手紙のサンプルも拝見しました。自身の思いを綴る短歌と異なり、ラブレター代筆屋としては、他人の思いを綴るお仕事を続けていらっしゃいますよね。

小林 たしかに、他人の思いを汲み取ることばかりを続けてきたので、歌として自分の思いを詠むのは不思議な感覚でしたね。自分の気持ちを前面に出す開放感もあれば、自分を出さなくちゃいけないという気恥ずかしさもありました。

――会社員としては、どのようなお仕事をされているのでしょう?

小林 45歳の現在で、勤めているのは5社目なんです。新卒でエンジニアとしてIT企業に入社して、次は、Web系の企業に転職しました。3社目も同様の業界です。その後、レストランや結婚式場を運営するサービス系の企業で管理部門を経験し、今の会社に至ります。

――企業で働きながら、2014年にラブレター代筆屋の活動をスタートされたきっかけも伺いたいです。

小林 40歳を過ぎてから歌を詠み始めたように、昔から新しいことをするのが好きで、会社員の仕事とは違うことをやりたくなったんです。まずは手始めに、本業のかたわらで大学院に通い、MBA(経営学修士)を取得しました。そこから、何かビジネスをやりたいと思ったんですけど、あまりにもビジネスじみたものもつまらないし、自分の「好き」を活かして楽しくできることは何かないかと考えたんです。それで自分のことをあれこれと掘り下げてみたら、子供の頃からラブレターをよく書いていたことに思い至り、ラブレターを書くって楽しいかも、と気軽な気持ちでスタートしたのがきっかけでした。

――活動が軌道に乗りはじめたのは、いつ頃だったんでしょう?

小林 安定して依頼をいただけるようになったのは、ここ4~5年ほどです。最初の頃はチラシを作って街中で配ったりしていたのですが、まったく反応がなくて、お手製のホームページを作ってみたところ、ポツポツと依頼が来るようになったんです。それでも安定的に依頼が来るという状態ではなく、当時は数か月依頼がないということもありました。

――ラブレター代筆屋といっても愛を伝える手紙ではなく、感謝や謝罪など、小林さんのたずさわっている手紙のジャンルは幅広いです。様々な思いを形に変えるため、依頼される相手とはどのように向き合っているのでしょうか?

小林 とにかく相手の話にしっかりと耳を傾ける。シンプルですが、これが一番大切なことです。代筆屋にとって大事なのは書く力ではなく、聴く力だと思っています。そのために、お会いできる方に関しては対面でお話をうかがうようにしています。効率性で考えれば電話やメールがいいことはわかっていますが、声や文字だけでは相手の人となりをつかむのが難しいんです。じかにコミュニケーションを取ることで、依頼内容への理解はもちろんのこと、依頼者に対しての理解も深まり、手紙のリアリティがより増すんですよ。

――これまで受けてきた依頼で、強く印象に残ったものも伺いたいです。

小林 手紙は自分以外の誰かへ思いを伝えるのが一般的ですが、たまに、「自分に向けて手紙を書いてほしい」という依頼もあり、最初に受けたときは意外でした。どういうことだろう?と思ってお話をうかがってみると、幼い頃から家族がいなかったり、友人がいなかったりで、ポジティブな言葉をかけてくれる人が周囲におらず、「あいしてるよ」とか「応援してるよ」といった言葉に飢えてるんですね。代筆屋にはこういう需要もあるんだと、強く印象に残っています。