玉手御前が自分のなかに居続けている

――最初に木ノ下歌舞伎「糸井版 摂州合邦辻」の再再演についてお聞きします。初演はいつでしたか?

内田慈(以下内田) 2019年でコロナ前の年でした。そこからより深化した改訂版を2020年に再演し、今回は再演と同じ内容になります。初演の時は歌舞伎の演目を完コピする稽古をしてから本編に臨みました。古語の理解に歌と踊りに舞台装置の転換などなど、やらなきゃいけないことがありすぎて頭がパンクしそうな状態で終わったのが初演。再演は初演をリメイクしたので、やっぱりやらなきゃいけないことが多くて(笑)。今回は、再演で仕上がったものを再構築し、さらに掘り下げる作業をするので、今までとは違う感覚になるのかなと思っています。前回の公演を終えてから、演者がそれぞれの人生で背負ってきたものもが身体に乗ってくると思います。経年分、体が動かなくなっている人もいるかもしれないけど(笑)。それを含めて、新たな発見の旅に出られるワクワク感でいっぱいです。

――初演の完コピ稽古の期間はどれくらいありましたか?

内田 資料を事前に渡されて、自主稽古はできたんですけど、みんなで一斉に始まってからは10日くらいだったと思います。

――コロナ禍のなか、短期間で3回も上演するのはすごく速いペースですね。

内田 京都にある「ロームシアター京都」という劇場が、お客さまに長く愛され続ける演目のプロデュースを目的とした「レパートリーの創造」という企画で作られた作品なので、そういう意味ではほかの作品とは違うかもしれません。

――オファーを受けた時はどんな気持ちでしたか?

内田 演出を担当した、糸井幸之介さんの作品にはこれまでも何度か出たことがありました。妙―ジカル(ミョージカル)という独特な表現でせつなくて、恥かしさを飛び越えて伝わるものがある唯一無二の演出がとても好きなので、お声をかけていただけてすごくうれしかったです。ただ、古典を演じるのは初めてでしたし、「摂州合邦辻」は大阪の話なので大阪弁というハードルもありました。しかも、私が演じる玉手御前の行動については、未だに解明されていないことが多くて、研究者方たちの間で議論されているらしく、「どうしよう!」と(笑)。でも、糸井さんと木ノ下歌舞伎の主宰である木ノ下裕一さんから、いろんなヒントをいただき、一緒に考えていくことができたので安心できましたし、結果として「こんなところまでいけるんだ」「こんな景色が見えるんだ」と思えるような特別な体験もしました。再再演があるならば、もう一度演じたいと思っていたのでうれしいです。

――玉手御前はどのように演じたのですか?

内田 分からないまま演じてみたら、体で分かることがあるかもしれないとか、頭で考えて「こういう道筋だったんじゃないか」と整理しながら稽古をしてみたりとか、いろいろ試してみました。でも、なかなかしっくりこなくて。そう思っているうちは、やっぱり演出から指摘される。なので何度も落としどころを話し合って演じるようにしました。最終的に今の玉手御前にハマったので、再再演にではその解像度を上げていきたいです。

――玉手御前に共感するところはありましたか?

内田 自分の人生にとって大事なことや、大事なものを守るために、なりふり構わず振る舞うところは共感できますね。最後にひとりで長いセリフを喋って、自分の行動の種明かしをするシーンがあるんですが、先日ふと口に出してみたら、涙がボロボロ出てきて止まらなくなり、再演から時間が経過しているのに、私のなかにはまだ玉手御前がいたことに驚きました。久しぶりに言葉を発しただけで、こんなに心が動かされるんだったら、再再演は今までにない世界にいけるような気がしています。