原作ファンだった『静かなるドン』の実写映画に出演

――5月20日から主演映画『あの子の夢を水に流して』が上映されます。内田さんは生後10ヶ月の子どもを失った瑞波を演じられています。

内田 舞台になるのは、2020年7月に豪雨被害があった熊本県の球磨川で、浸水の高さが分かる場所や、線路が分断されたところなど、被害にあった場所をロードムービーのように歩きながら撮影しました。被害を直接的に描くのではなく、漂うような空気感で球磨川の美しさと恐ろしさを映し出し、球磨川と共に生きる人々の暮らしに共感できるような映像に仕上がっています。

――当時の傷跡が残っている部分もあったのですね。

内田 遠山昇司監督は球磨川が流れる、熊本県八代市のご出身なので、当時の風景を残しておきたいという強い思いがあったようです。

――共演した玉置玲央さんと山崎皓司さんの印象を教えてください。

内田 3人とも同年代で、同じ時代にそれぞれ小劇場の世界で経験していた同志という感覚です。そのことを理解されていたプロデューサーの武田知也さんがキャスティングされました。10年ぶりに帰郷した瑞波が旧友と出会うストーリーなので、その狙いもあったのかと思います。

――遠山昇司監督は役者さんに委ねるタイプでしたか?

内田 「こうやってください」と言われることは全くなかったですが、ト書きやセリフにはっきりとした意図があるので、俳優の演技が監督の狙いと違う場合は、その理由を聞かれたり、「僕はこう思うけれどどうだろう」と意見を言ってくださったりしたので、現場でディスカッションをしながら進めていきました。ある時は、監督のプランでOKを出したカットが撮り直しになったこともありました。翌日になって監督から「本当に申し訳ないんだけど、演者の芝居を観たら僕の演出プランが違っていたことがわかった。君たちの芝居を見て新しい演出プランを考えたから、もう一度あのシーンを撮らせてくれ」と言われたんです。私達のことをしっかり見てくださって、一緒に作品を作っているんだなと、強い信頼関係が感じられました。

――完成した作品はご覧になりましたか?

内田 観ました。すごく不思議な作品でした。普通の物語は人間の感情を主軸にすることが多いけれど、今回の作品は風も水面も葉も人間も全て同等に扱われていて、誰かに感情移入するというよりは、観ている人とその時間を共有するドキュメンタリーに近い映画だと思いました。

――同じ時期に、人気漫画の実写映画『静かなるドン』にも出演されます。昼はサラリーマンの草食系男子、夜は暴力団総長という2つの顔を持つ主人公・近藤静也を伊藤健太郎さんが演じ、内田さんは、静也と対立する鬼州組四代目の妻・坂本龍子役で出演されます。伊藤健太郎さんの印象を教えてください。

内田 原作の静也はボテッとしていますよね。見た目が違いすぎるので最初は「伊藤さんを太らせるのかな」と思ったりしましたが、現場で集中してシュッとしているところ、スタッフとふざけたりする伊藤さんの切り替えを見たら、ヤクザとカタギの二面性を持っている静也にリンクして、「原作ファンも、魅了されるんじゃないかな」と。また伊藤さんは殺陣がすごく上手で、アクションシーンでは皆を引っ張られていたそうです。私はヤクザのほうの静也と接することが多かったので、カタギの仕事をしている静也を観るのがすごく楽しみです。

――『静かなるドン』の原作はご存知でしたか?

内田 もともと原作のファンで、オファーをいただく少し前に「龍子の役をキャスティングするとしたら誰が面白いかな」と考えていたんです。チャンスがあれば私が演じてみたいと思っていたので、お声をかけていただきビックリしました。今の時代だとコンプライアンスに違反しそうな部分はうまく工夫して、原作の面白いところを抽出した面白い作品になっていると思います。

――なぜ龍子を演じてみたいと思ったのですか?

内田 龍子は男社会の中で、弱さと強さを行ったり来たりしまくるんです。人間味が感じられて、独特の可愛らしさにも惹かれて、演じてみたかったんです。

――山口健人監督の印象はいかがでしたか?

内田 監督とは「アバランチ」(フジテレビ系)というドラマでご一緒したことがあり、今回は2回目でした。一見クールに見えるのに、すごくいい画が撮れた時や、予想外に面白いことが起きたりした時にスキップするんです(笑)。監督にお聞きしたら「うれしいとスキップしちゃうんです」って。現場でも話題になりました。監督の可愛さが今回の現場の一番の発見でした。

――演出する際もクールなんですか?

内田 伝える時の温度はクールですが、ストックされている情報量や思い入れはものすごくホットで。「こうしなさい」ではなくて、役者の気持ちが熱くなるように演出してくださいます。時間がない中でもこだわりは持ちつつ、違うと感じたカットなどは、擦り合わせた上でうまく時間を使って撮影してもらえるので、俳優としてはありがたかったです。だからこそ、スキップのギャップ萌えが強烈でした(笑)。