選択肢を自分の中で持てるようになってほしかった

――『渇愛の果て、』はプロデュースユニット「野生児童」主宰の有田あんさんが監督・脚本・主演を務める映画で、長編映画監督デビュー作となります。本作の発端に小原さんが関わっているそうですね。

小原徳子(以下、小原) もともと『渇愛の果て、』は「野生児童」の舞台で、2020年6月に公演の予定だったんですが、コロナ禍で中止になってしまい、「どうしようかな」と有ちゃん(有田)が悩んでいたんですよね。その前に私が『光の中で、』(2019)という短編映画の監督を有ちゃんにお願いした経緯があって、「長編映画に挑戦するのもいいんじゃないか」という助言をしました。

――有田監督とは『光の中で、』の前から親交はあったんですか。

小原 舞台で何度か共演していました。

――そもそも短編映画の監督を依頼した理由は?

小原 有ちゃんは「野生児童」で脚本・演出もやっていましたし、その作品を私も観に行っていたので、自分が短編映画をプロデュースするときはお願いしたいなと思っていたんです。それで『光の中で、』をお願いしたという経緯もありましたし、ちょうどコロナ禍で俳優が映画を作るという流れもあったので、これは長編映画を撮るチャンスなんじゃないかなと思ったんですよね。それに『渇愛の果て、』の「出生前診断」というテーマは、大勢の方が興味を持ってくださると思ったんです。

――本作は有田監督が、友人の出生前診断の経験をきっかけに、助産師、産婦人科医、出生前診断を受けた方・受けなかった方、障がい児を持つ家族に取材をし、実話を基に制作した作品です。デリケートなテーマですが、キャストとしてどう感じましたか。

小原 デリケートな問題ではありますが、どの意見が良い・悪いではなくて、実際に知るということをしないと、自分も選択できない。やっぱり選択肢がないことが一番怖いと思うんですよね。それぞれが選択肢を自分の中で持てるようになるために、出生前診断のことを知ってもらう良いきっかけになるんじゃないかなと思いました。

――重いテーマですが、本編は随所に軽やかさもありました。脚本の段階でそういう要素は見えていたんですか。

小原 脚本の前段階から、有ちゃんは「重い作品にはしたくない」と言ってました。私もそれがいいなと思いつつ、やっぱり重くなってしまうシーンもあるじゃないですか。そこは良い塩梅で、映画の中で箸休めがありながら、しっかり考えてもらうシーンがあるというのがいいんじゃないかなと思いました。

――初めて脚本を読んだときの印象はいかがでしたか。

小原 有ちゃんの伝えたいこと、やりたいこと、「私はみんなにこうであってほしい」という思いが伝わってきました。おそらく2作目3作目と監督していくと描けなくなるようなストレートな思いのぶつけ方は、初長編監督作ならではだなと思いました。

――主人公と友人3人のやり取りがリアルでしたが、脚本の段階でかっちりセリフは決まっていたのでしょうか。

小原 コロナ禍だったのもあって、Zoomを通してエチュードなどで会話をしながら脚本を作っていくという作業をしたので、脚本の前段階から、「こういう空気感だよね」というのは見えていました。

――自宅パーティーのシーンなどは、長年の友達ならではの親密さが漂っていましたが、瑞生桜子さん、小林春世さんとの共演経験はあったんですが?

小原 お二人とも初めてです。私自身、自宅パーティーのシーンは印象に残っているんですが、キャスティングがすごく上手くいったなと感じていて。有ちゃんは全員のことを深く知っていたので、こういう化学反応が起きるんじゃないかと計算していたと思いますし、それが良い形で出ました。

――里美を演じるにあたって、どういうことを意識しましたか。

小原 里美は親友グループの中で唯一の主婦で、お母さん。だからこそ里美にしか言ってあげられないことだとか、里美だからこその距離感があると思ったので、そういうところは大事にしたいなと。有ちゃんとは俳優として舞台で共演してから、仲良くさせてもらっていて、それぞれの考えをぶつけるときに、「こうしなさい!」じゃなくて、「こうだけどどう思う?」みたいに相手に委ねるところがあって。リアルな友達だからこそ、そういう関係性は里美を演じる際にも活かしました。

――脚本を書くにあたって、有田監督は当事者に取材をしていますが、そういうお話はキャスト陣にも共有されたんですか。

小原 有ちゃんの友達の経験が元になっていますし、その話をしてくれたときに、みんなで話し合って、意見を言い合って。たくさん情報共有しながら、それぞれの考え方も知りつつ作っていきました。

――親友グループの彼氏や夫は、パートナーが問題に直面したとき、どこか他人事にならざるを得ないのも印象的でした。

小原 私の周りでも出産する友達が多いんですけど、どうしても女性のほうが先に親になる印象が強くて。男性は子どもが生まれるまでは実感があまりないというか。そういうところはあるなとリアルに感じていたので、この映画はすごくリアリティがあると思います。

――有田監督の演出はいかがでしたか。自身で主演も務めているので、大変だったかと思います。

小原 『光の中で、』のときも出演してもらっているんですが、もともと自身が主宰する「野生児童」でも出演・演出をしているので、映像でもスムーズだなと思いました。他の役者も、スタッフを担っている部分が多かったので、「キャストとスタッフ」ではなくて、みんながチームとして一丸になってやっている印象が終始あって。日を追うごとに団結力が高まっていくのを感じました。

――完成した作品を観た印象はいかがでしたか。

小原 私は山元眞希(有田あん)が両親と妹とやり取りする家族のシーンが大好きで、血の繋がった親じゃないと出ない言葉が詰まっているのを強く感じました。もちろん友達がいなかったら、眞希の状況も違っていたでしょうけど、家族だからこそ刺さるお母さんの言葉にぐっときました。