自分自身の中にあるものを引っ張り出すような感覚で役作りをした
――『ハスリンボーイ』の原作と脚本を読んだ印象からお聞かせください。
一ノ瀬颯(以下、一ノ瀬) 道具屋(※裏社会で必要不可欠な非合法ツールを手配する者たちのこと)に焦点を当てたところ。しかも主人公のタモツは普通の大学生で、奨学金返済が元で道具屋の世界に足を踏み入れてしまう。その切り口が斬新で、どんな映像になるのか楽しみでした。その中で特異なキャラクター、ウツロを演じさせていただくことはプレッシャーもありつつ、ワクワクしました。
――前半のウツロは非情でエキセントリックさを醸し出していましたが、徐々に出自が明らかになり、内面も浮かび上がります。
一ノ瀬 ドラマは原作のマンガを完全になぞるというよりは、一人ひとりに焦点を当てて、キャラクターの魅力をより一層引き立たせた作品になっていると思います。ウツロの人間らしさも大事にしていただき、深く掘ってもらいました。撮影中も、鈴木浩介監督はこういうカットが欲しいんだろうなと伝わってきて、ウツロの人間らしさはどんどん増されていった印象です。
――前半と後半ではウツロの印象も変わります。
一ノ瀬 最初のほうは仮面をかぶったような印象ですけど、少しずつ人間らしさが出てくるみたいな。僕の場合は、ほぼ順撮りで撮影していただいたので、役に入っていきやすかったです。
――ウツロを演じる上で、どんなことを意識しましたか。
一ノ瀬 過去に何度かヒール役を演じていますが、なかでもウツロは抱えているものが大きいんです。僕にとって初めて尽くしの役ではあったんですが、誰しもウツロのような部分はどこかしらにあるなと。
――どういう部分でしょうか。
一ノ瀬 たとえば他人に自分の考えを読ませないように、自分で自分を作っているみたいなところです。自分の中に全く要素のない役を演じた訳ではないので、僕自身の中にあるものを引っ張り出すような感覚でした。ウツロとして人と会話するとき、相対している人が不安になるような、何を考えているのか分からない所作の奇妙さみたいなところは、不自然にならない程度に意識しました。
――一ノ瀬さんは昨年3月まで大学生でしたが、タモツに共感する部分などはありましたか。
一ノ瀬 大学には裕福な家庭に育って、幼稚園の頃から一貫校に通って、大学近くの高級住宅街に住んでいる人が普通にいるんですよね。個人的に友達のお父さんが所有するクルーザーに乗せてもらうこともありました。そういうときに同じ大学に通っているけど、住む世界が違うのかなとタモツのように格差社会を感じることもありました。逆に奨学金を借りて、返済のことを不安に感じている人もいたので、タモツは身近な存在として捉えられました。
――闇バイトなどの犯罪に手を染めてしまう大学生についてはいかがですか。
一ノ瀬 高校時代、学校の先生が「大学生になると、それまで受験などで張り詰めていたものから解放されて、危険な勧誘に乗ってしまいやすい」と注意喚起をしていたので、その時点で僕は警戒心を持っていましたが、中にはタモツのようなケースもあり得るんだろうなとリアリティを感じます。