撮影前日に電話で派手なアクションシーンのリクエスト
――25年前の父の暗殺事件以来、散り散りになりながらも固い絆で繋がっている三兄弟が、久しぶりに集結して巨悪に立ち向かう映画『ぴっぱらん!!』。山口さんは長男の百鬼峻を演じています。監督は次男の百鬼要を演じる崔哲浩さんですが、どのようにオファーがあったのでしょうか。
山口祥行(以下、山口) 崔監督とは……面倒なので、いつも通りに呼ばせてもらいますが(笑)。崔とは色々な作品で共演していて、知り合ってから長いんですが、直で電話があって、「また映画を撮るから、山さん一緒にやりましょうよ」という感じでオファーがありました。配役も面白そうだったし、「いいよ」と。
――崔さんの監督作に出演するのは初めてですよね。
山口 そうです。過去の監督作(『北風アウトサイダー』)も観ているんですが、崔は人思いな性格の持ち主で、みんなのお芝居を大事にし過ぎて、自分を疎かにしていてもったいないなと感じました。だから今回は「たくさん出ればいいじゃん」と言ったんです。
――三兄弟の中で崔さんの比重が大きいのは、山口さんの一言もあったんですね。
山口 脚本を書いて、監督もして、主演もするということは僕にはできないことだから、体が辛くても撮影が押して時間がかかっても、そこは大切にしてほしいと思ったんですよね。
――現場での崔さんはいかがでしたか。
山口 今回の現場はスタッフさんに恵まれていて、助監督さんを始め、ベテランの方が多かったので、崔としてはやりやすかっただろうし、助けられたところもいっぱいあるんじゃないかな。だから演出と芝居に集中できたと思いますよ。
――初めて脚本を読んだときの印象は?
山口 家族と民族との問題が絡んだ昭和テイストの泥臭いストーリーが、懐かしくもあり、新鮮に感じたところもあります。
――百鬼峻はどんなキャラクターと捉えましたか。
山口 三兄弟の中で一番ミステリアスな存在ですが、長男として兄弟の中で誰よりも家族愛が強いからこそ、過酷な道を選んだ人物だと思うんです。そして身内にもバレないように、裏から助けてあげる。本当は兄弟に会いたかったけど、タイミングを計っていたと思うし、愛情の深さが裏に行く。長く耐え忍んできたことによって寡黙になった男を意識して演じました。
――現場の雰囲気はどんな感じでしたか。
山口 スタッフも俳優も馴染みのある方ばかりでしたし、アクション監督もご一緒することの多い二家本(辰己)先生なので楽しんでやれました。
――峻が三男の百鬼湊を助けに行くシーンは派手な階段落ちなど、見事なアクションを山口さん自身が吹き替えなしで演じられています。
山口 あのシーンは前日に二家本先生から電話があって、「こういうシーンを撮りたいからやってくれ」と言われたんですが、撮影当日、ご本人は来なかったんです(笑)。アクションチームもよく知っている人たちで、僕と同じように二家本先生から前日に電話があって、「山口とこういうことをやってくれ」という指示があったそうです。
――その場でアクションを付けたんですか。
山口 そうです。テストから僕がやったんですが、1回目は落ちそうになって、バランスを取るために手すりを触りました。ただ、人の上に乗った階段落ちは初めてでしたが、階段落ち自体はしょっちゅうやっていましたし、怪我もなく安心してできました。もうやりたくないですけどね(笑)。
――そういったぶっつけ本番に近いアクションはよくあることなんですか?
山口 アクションチームにもよるんですが、二家本先生のときはそういうことが多いですね。たとえば台本には2行程度しか書かれていないので、この程度かと思って現場に行くじゃないですか。ところがワンカットで長くアクションを撮るということで、結果的に2ページ分ぐらいのシーンになるんですよ。何度もご一緒しているアクションチームだからこその信頼関係があってできることですけどね。
――湊を演じた福士誠治さんも数多くの作品で共演されていますよね。
山口 誠治は何でもできるんです。芝居はもちろん、歌も踊りも上手くて、けん玉も上手で(笑)。
――けん玉ですか(笑)。
山口 すごい腕前なんですよ。「けん玉王」です。今回、弟役と聞いたときはうれしかったですね。誠治のことはよく知っているので、改めて役について話し合う必要もないし、安心感がありました。