舞台の稽古は地味な時間の積み重ねだが、お芝居の筋肉をつけるには一番

――キャリアについてもお伺いします。芸能の世界に入ったきっかけは何だったのでしょうか。

戸田 どこからを基準にしたらいいのか分からないんですが、もともとは母がNHK名古屋放送児童劇団の募集要項を新聞で見つけて、勧められて受けたのが小学5年生のときです。当時は女優になりたいとは思っていなくて、人前でパフォーマンスすることが嫌いじゃなかったですし、お稽古事をいっぱいやっていたので、そのうちの一つという感覚でした。将来の目標とかもなくて、言われるがまま試験を受けて、合格して、すぐにドラマ『中学生群像』(※『中学生日記』の前身)に出ることになるみたいな。望んでそうなった訳ではなく、流れに乗って、ここまで来たという感じですね。

――役者を中心にやっていこうと決意したきっかけはあったのでしょうか。

戸田 15歳のときに歌手としてスカウトされて、単身上京して、歌手デビューをして。4年ぐらい歌手という肩書きでタレントのようなことをしていた時期を経て、売れないので辞めようと自分で見切りをつけたときに、一般の職業に就くことも考えたんです。たまたま、そのときに「うちの劇団を観に来ないか」と野沢那智さんに誘われたことで舞台に興味を持って、那智さんが主宰する劇団に研究生として入るんです。それで舞台の面白さを知って、そこからが本当のスタートです。舞台だったら、自分というものを見いだせるんじゃないかと思ったんですよね。

――俳優として数多くの舞台、ドラマ、映画に出演する一方で、声優としても数多くのアニメ作品に参加されています。幅広く活動されていますが、やはり中心にあるのは舞台なのでしょうか。

戸田 そうですね。どんどん新しい仕事をするようになって、手に余るようなら何かをやめなきゃいけないと思いつつ、そういうことにはならなかったので今も全部やらせてもらっているんですが、その中でも絶対に舞台は自分の軸にあるものだと思っています。それに二十歳から舞台に立つようになって、それから一度も舞台に出なかった年がないんです。

――どういうところに舞台ならではの醍醐味を感じるのでしょうか。

戸田 舞台は生身の体をお客さんの前に晒す場です。ましてやミュージカルになると、歌ったりダンスしたりのスキルも必要ですし、そういったものを全部兼ね備えて板の上に立つという非常にシビアな世界。映画やドラマはアップで撮られることもありますが、全編で一人だけの演技を撮られることは基本的にありません。ただ舞台は、特別推しの人がいれば別ですが、お客さんは引きで観ることもあるので、セリフを喋っている人も、喋っていない人も視界に入ります。そのライブ感が楽しいんですよね。

――なかなか映像作品では得られないですからね。

戸田 もちろん映像の仕事も楽しいんですが、特にドラマはあまり稽古をしないまま即興みたいな感じで毎日終わっていくから、「このシーンが終わったら、はい、さよなら」という感覚。舞台は毎日同じ人と、同じセリフを交わして、みんなで作り上げて、初日を迎えます。すごく地味な時間の積み重ねなんですが、お芝居の筋肉をつけるには、それが一番だなと思うんです。あまり舞台はお金にならないですが(笑)、役者としての力を付けられるのが強みだと思っているから、必要なことだし、今もやめていないんです。舞台がゼロになったら自分としては上手く成り立たないだろうなと思います。今は(笑)。

Information

『裸足で散歩』

【東京公演】
日程:2024年11月8日(金)~11月19日(火)
劇場:銀座 博品館劇場
※その他の公演日程は公式サイトをチェック!

作:ニール・サイモン
翻訳:福田響志
演出:元吉庸泰
音楽:栗山梢
出演:加藤和樹 高田夏帆 福本伸一 松尾貴史 戸田恵子
企画・製作 :シーエイティプロデュース

寒い2月のニューヨーク。古いアパートの最上階に新婚のポール・ブラッター(加藤和樹)とコリー・ブラッター(高田夏帆)が引っ越してきた。工事に来た電話会社の男(福本伸一)も息切れして話せないほどの階段。エレベーターはなく、天窓には穴があき、暖房も壊れ、家具も届いていない。夜には雪が降るらしい。アパートには不思議な住人がたくさん住んでいる。その中のひとり、屋根裏部屋に住むヴィクター・ヴェラスコ(松尾貴史)はブラッター家の窓を通って自分の部屋に行く。コリーはここでの生活をすごく気に入り楽しんでいるが、真面目な弁護士のポールはこのアパートに馴染めずにいた。ある日コリーは、母であるバンクス夫人(戸田恵子)との食事にヴェラスコを誘い、食事を楽しんだ。だが、みんなが帰った後、2人きりになったポールとコリーはケンカをし始めてしまう。ポールとコリーの新婚生活はどうなってしまうのか?

公式サイト
X

戸田恵子

1957年9月12日生まれ。愛知県出身。NHK名古屋放送児童劇団に小学5年生から在籍し、『中学生群像』(『中学生日記』の前身)で女優デビュー。1973年に上京し、翌74年「あゆ朱美」の芸名で歌手デビューする。その後、77 年、野沢那智主宰の劇団「薔薇座」に入団し、89 年の退団まで看板女優として活躍。以後女優として、舞台に数多く出演するほか、テレビドラマ、映画に出演。1997 年 『ラヂオの時間』で日本アカデミー賞優秀助演女優賞受賞、2006 年 舞台『歌わせたい男たち』で第 13 回読売演劇大賞最優秀女優賞受賞、2018 年 『Sing a Sing』で菊田一夫演劇賞受賞。79年に『機動戦士ガンダム』のマチルダ・アジャン役で本格的に声優としての活動をスタート。その後、アニメ『ゲゲゲの鬼太郎』(三作目)の鬼太郎、『キャッツ・アイ』の瞳、『きかんしゃトーマス』のトーマス、『それいけ!アンパンマン』のアンパンマンなどの声で人気を集める。洋画の吹き替えも数多く手掛けジュリア・ロバーツ、ジョディ・フォスター、ビビアン・リーなどでよく知られている。

PHOTOGRAPHER:YU TOMONO,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI