11歳で事務所に所属する時点で俳優でやっていく覚悟が決まっていた

――いつ頃からお芝居を仕事にしていこうと決めたのでしょうか。

松岡 事務所に入るときからです。何となく両親を説得するのではなく、ちゃんと納得してもらうことが一番良い形だと思ったので、「僕はこの仕事で生計を立てたい」と言って頭を下げ、「やるからにはちゃんとやりなさい」と背中を押してもらいました。

――早くから俳優活動を始めて、途中で辞めていく方も多いと思いますが、どうしてぶれずに続けられたのでしょうか。

松岡 何より楽しいというのが一つと、自分に毎回満点を出せないので、常に課題がある。今でさえできてないことがたくさんあるし、学ぶこともたくさんあるので、別に満点をもらうためにやっているわけではないですが、まだまだだなと自分の未熟さを感じるから続けていられます。上手くはなりたいですが、「あの人、芝居完璧だよね」とは言われたくなくて、ずっと成長している段階がいいです。

――「上手いだけ」というネガティブなイメージにもなりかねないですしね。

松岡 上手いというイメージが固着して、「あの人が出たら問題ないよね」みたいに言われると、天井が決まっているような感じが僕はしていて。限界を決めたくないという意味でも、ずっと「上手くなってきているよね」くらいでいたいです(笑)。

――舞台が好きになったきっかけを教えてください。

松岡 仕事としての初舞台は15歳のときに出た『FROGS』(13)なのですが、その前に事務所内で夏の発表会というのがあり。同世代ぐらいの方々の中で主演をやらせてもらったのですが、それがとても面白かったんです。その経験が頭からこびりついて離れなくて。その後に『FROGS』を経験してからは観客として、たくさんの舞台を観に行きました。

――それまで舞台を観ることはなかったんですか。

松岡 アミューズが制作の舞台や、先輩が出ていらっしゃる舞台は観に行っていましたが、自分で舞台を経験してから、小劇場や小さい劇団まで、あらゆるところへ行くようになりました。

――舞台のどこに魅力を感じたのでしょうか。

松岡 目の前にいる同じような背格好の人間が、こんなにエネルギーを出すんだと。何にでもなれるみたいな役者の全能感というか、血湧き肉躍るところが堪らなく好きでした。

――小劇場は、より役者さんのエネルギーを間近で感じますしね。

松岡 究極、芸術はエゴだと思うのですが、分かる人だけ分かればいいという潔さ、我々は好きなことをやっているだけ、という感覚が好きなんです

――松岡さんは映像作品にもたくさん出演されていますが、役作りをする上で舞台と違いはありますか。

松岡 根っこの芝居は同じだと思っているので、僕は舞台と同じぐらい、映像でも役作りに時間をかけます。そういう意味では大きな違いはないと思います。

――稽古が始まる前の準備期間は、どのように過ごしているんですか。

松岡 喫茶店で、ずっと台本とにらめっこして、分からないことがあったら付箋を貼って書き込んで、何ヶ月も役と対峙します。今回の舞台は英語の翻訳ですが、僕は翻訳家の方の存在も重要視しています。というのも俳優が主体的に言葉を選ぶことが大切だと思っていて。台本を読み込む際、なぜこの翻訳家の方は、数えきれない選択肢の中で、この言葉を選ぶのか。それを考えることで、役への理解が深まります。

――どうして準備段階で、そこまでセリフを吟味するのでしょうか。

松岡 以前、ある舞台を観に行ったときに、おそらく台本に書かれたそのままの言葉で、少し伝わりにくいなと思ったことがありました。もちろん作品によってのリズムがあると思うのですが、何を伝えたいのかを考えるのが俳優の仕事だと思うので、演出家や翻訳家の方々と一緒に考えていく必要があると思っています。『モンスター』の翻訳を担当されている髙田曜子さんは議論を重ねてくださる方なので、お互いの意見や立場を尊重しながら、自分なりのダリルを作り上げていきたいです。

Information

『モンスター』

作:ダンカン・マクミラン
翻訳:髙田曜子
演出・美術:杉原邦生
音楽:原口沙輔
出演:風間俊介 松岡広大 笠松はる 那須佐代子

【東京公演】
公演日程:2024 年 12 月 18 日(水)〜28 日(土)
会場:新国立劇場 小劇場

【大阪公演】
公演日時:2024 年 11 月 30 日(土)13:00 公演・17:30 公演/12 月 1 日(日)13:00 公演
会場:松下 IMP ホール

【水戸公演】
公演日時:2024 年 12 月 7 日(土)14:00 公演/8 日(日)14:00 公演
会場:水戸芸術館 ACM 劇場

【福岡公演】
公演日時:2024 年 12 月 14 日(土)12:00 公演/16:30 公演
会場:福岡市立南市民センター 文化ホール

ねえ聞いていい?もしも、ある日目がさめて両足が吹っ飛んでたら、そしたらあんたはどうする?教育現場で新たな人生を歩み出したトム(風間俊介)の目の前にいるのは、14 歳の少年ダリル(松岡広大)。何も恐れない、壊れてしまった少年に、大人は何ができるのか。二人きりの教室で少年と向き合い続けるトム。歴史は変えられなくても、より良い未来を作ることはできるかもしれない、ひたすらにそれを信じて。これから生まれてくる自分自身の “小さなモンスター”のためのより良い未来を。トムを心配するが故に苛立ちを募らせる婚約者のジョディ(笠松はる)。失うことを恐れ何もできずに天使に縋るダリルの祖母リタ(那須佐代子)。ある夜、トムの帰宅を一人待つジョディの前に、ダリルが現れる。

公式サイト
Instagram
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松岡広大

1997年8月9日生まれ 東京都出身。2012年に俳優デビューを果たし、翌年『FROGS』で初舞台を踏む。15年にライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」で主人公のうずまきナルト役として初主演を務めた。以降、舞台・映像など幅広く活躍している。近年の主な出演作に【舞台】『空中ブランコのりのキキ』(24)、『ねじまき鳥クロニクル』(23・20)、『スリル・ミー』(23・21)、『ニュージーズ』(21)、【映画】『八犬伝』(24)、『赤羽骨子のボディガード』(24)、『沈黙の艦隊』(23)、【ドラマ】『錦糸町パラダイス〜渋谷から一本〜』(TX・24)、連続テレビ小説『らんまん』(NHK・23)、『around1/4 アラウンド・クォーター』(ABC・23)、『壁サー同人作家の猫屋敷くんは承認欲求をこじらせている』(ABC・22)などがある。

PHOTOGRAPHER:YASUKAZU NISHIMURA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI,HAIR&MAKE:SAYAKA TSUTSUMI,STYLIST:KENTARO OKAMOTO