一生分の精神的負荷がかかったような感じがしました。

――本作は全編がほぼアドリブで展開していく映画となっていますが、出演オファーをいただいたときはどんなお気持ちでしたか?

犬飼貴丈(以下、犬飼) 僕にとって台本は装備なんですよ。それがない、無防備な状態で現場に立たされるっていうことがすごく恐怖でした。僕らの職業あるあるで、セリフを覚えていないまま本番に立たされるというような夢を見る人がかなり多いんですけど、それと似た感覚で怖かったです。

――「マーダーミステリー」は殺人事件を題材としたディスカッション型の推理ゲームです。このゲームそのものはご存知でしたか?

犬飼 知ってはいたんですけれども、まさか自分が火中に入るとこんなに必死になるんだっていう(笑)。見ている分には楽しいですけど、飛び込んでみないと分からない世界だなと思いました。

――8人の登場人物一人ひとりに思惑や因縁があってそれが交錯していく物語で、犬飼さんは一流大学を出て医者として村にやってきた六車聡役を演じられています。役を演じる上で意識されたことはありますか?

犬飼 多種多様な人物がいるので、立ち振る舞いの部分は意識したかなと思います。それ以外は作ってきたものがいつどこでぶち壊されるか分からない状態だったので、逆に作り込んでいっちゃうと事故るなと思い、柔軟に対応できるように、あまり作り込まずに行きました。

――普段はドラマなどの撮影にあたり準備は入念にするほうですか?

犬飼 そうですね。現場に臨むとき、僕の場合は事前に積み上げて準備していったものが違った場合に、ちょっとうまくいかないと思うことが多いので、今回は削いでいった方がいいなと、直感で行きました。

――映画を観ていると、六車は自分が持っている情報を積極的に出していく場面が多いように感じました。

犬飼 ずっと黙っているとこっちに飛び火してきそうだなっていうのがあるので、攻撃は最大の防御じゃないですけど、口数多く喋ることによって、逆に喋らない人に向かっていくようにした方が優位な立場に立てるんじゃないかと思ってやっていたんですけど、全然そんなこともなかったです(笑)。どんどん僕らも聞かされていない証拠が出てきたりするので、その場で提示されたものに対して、どう対処するかは事前に考えられないことだから、人間としての嘘つき力がいかに試されるかということはありました。

――役者としての剥き身の姿をみているような、新鮮な感覚もあります。

犬飼 もう中盤からはあまり考える余裕もなく、いかに生き残るかという、『ウォーキング・デッド』みたいなサバイバル感覚でやっていました。自分が犯人じゃないことを主張するには、からくりとして逆に殺意を自白しなければいけない場面もあったり。しかも本番で一度きりの流れだからやり直しがきかない状態というひりつく感覚が、本当に一生分の精神的負荷がかかったような感じがしました(笑)。