ガンダムシンガーという新たな大きな名刺

――今年も残り1か月となりましたが、2024年はどんな1年になりましたか?

中川翔子(以下、中川) やっぱりガンダムとの出会いが大きかったですね。今まさに、新曲「ACROSS THE WORLD」のキャンペーンで全国を回っているんですけど、それに先駆けて、夏にはアメリカ・ロサンゼルスの『Anime Expo 2024』にも久しぶりに行くことができました。現地ではガンダムトークをしたり、ガンプラを作っている方ともお話をしたりして、ガンダムが世界中で愛されていることを実感できて良かったです。

――ガンダムはいつ頃から好きだったのですか?

中川 実は、去年入院した時に本格的にハマりました。「死ぬんじゃねーぞ!!」っていっぱい言ってきましたけど、入院中に“生きること”や“命”について考え直すようになった時に、改めてガンダムにドハマリして、ガンダムの中に出てくる名言にもたくさん救われた気がしています。この広い宇宙の中で巡り合えたことの奇跡だったり、人それぞれの考え方があって、でも誰が正しいとかじゃなくて、それらがアクロスすることによって新しい道が見つかったりするんだよな…と思っていたら、今回の(タイアップの)お話が来たので本当に驚きました(笑)。

――奇跡のようなタイミング、出会いだったのですね?

中川 言霊ってあるんだなと思いましたね。私は運がいいことに、これまでにも会いたい人に会えたり、夢が叶ったりすることがたくさんありましたけど、ガンダムの主題歌を歌える人生になるとは夢にも思っていなかったです。2007年に『天元突破グレンラガン』の「空色デイズ」という楽曲に出会えたことで、ここまで長く歌手として歌い続けてこられたと思っていたんですけど、今年さらに人生が塗り変わったというか、ガンダムシンガーになれたことで新たな大きな名刺ができたので、これからはこの曲を大切に歌い続けていきたいと思っています。

――冒頭から、2024年がとても濃い1年だったということがビシビシと伝わってきました。

中川 今年は本当に色々なことがありましたね。ラプンツェルの声と歌を担当させていただいた東京ディズニーシーの『ファンタジースプリングス』がオープンしたのも今年でしたし、人生の集大成感がある1年でした(笑)。

――しかし、ガンダムにハマったのが去年というのは、少し意外な気もしました。

中川 もちろんちょこちょこ見てはいたんですけど、忙しい中でしっかり見るには集中力と余裕が必要で…。どっぷりハマるタイミングを逃してしまったという悔しさがずっとあったんですけど、入院期間中は本当に何もできなかったので、そこで改めて見始めてドハマリしたという感じでした。

――どんなところにハマっていったのでしょうか?

中川 きっかけのひとつがミハル・ラトキエというキャラクターで、今年のハロウィンではコスプレもしたんですけど、ミハルは一市民というか、普通の女の子なんですよね。でも、スパイ活動をすることになり、弟や妹のために体を張って頑張っていたのに、爆風で吹き飛んで一瞬で亡くなってしまうんですけど、その亡くなる瞬間を誰も見ていないんです。当たり前のように見える“今”というのは、歴史の積み重ねがあってのことですし、その裏では実はたくさんの名もなき英雄達が亡くなっていて、私達が生きている“今”は本当に奇跡なんだなということを考える大きなきっかけになりました。あと、タムラコック長という人が出てきて、みんなが命懸けで戦っている中、塩不足を指摘するシーンが出てくるんですけど、塩がないと人は生きていけないですし、士気が上がらないということを教えてくれていたりもするんですよね。今回、全国キャンペーンを回ってみて、人生は“思い出作り”と“食”だなと再認識したんですけど、ガンダムは普段あまり意識しないようなそういう大事なことを明確に描いているところが面白いなと思ってハマりました。

――今では、中川さんにとってガンダムはどんな存在になっていますか?

中川 本当に特別な存在です。どんなに辛いことがあっても、例えば、悪夢を見ようが金縛りになろうが、ガンダムシンガーになれたんだと思えば乗り越えられると思いますし、色々なことを背負って真面目に生きて長生きしたいと思うようになりました。

――では、改めて、今回の長編VR映画『機動戦士ガンダム:銀灰の幻影』主題歌「ACROSS THE WORLD」について教えてください。

中川 まず、何よりもアムロやシャアが生きていたあの頃の宇宙世紀の続きを描いた新作だということが嬉しかったです。新曲なのに昭和を感じるというか、80年代後半とかの雰囲気を感じる曲なので、初めて歌った気がしなくて、昔から歌っていたかのようにしっくりきています。しかも今回の『銀灰の幻影』という作品は、最先端の技術で本当にパイロットになる夢が叶ってしまう映画だというのが未来的なので、懐かしいと新しいが混在しているようなところがとても好きですね。