「こいつには敵わない」という圧倒的な強さを出すようなアクション

――『他人は地獄だ』はスプラッター要素の強いサスペンスホラー作品ですが、もともとホラー映画はお好きなほうですか。

栁俊太郎(以下、栁) 子どもの頃は怖いものみたさで観ていたんですが、大人になってからは、あんまり観ていなかったです。ただ僕の大好きな韓国ノワールはストーリー性があった上でスプラッター色の強い作品も多いので、そういう映画を観ることは多いです。

――韓国ノワールはリミッターの外れたような映画が多いですよね。

栁 そこが韓国映画の強いところですよね。今回のように、自分がそういう作品に出たときに、ああいった狂気的な部分を出せるのかというところでも、観ていて勉強になります。

――『他人は地獄だ』は韓国発のWEBコミックで、ドラマ化もされています。

栁 事前に原作も読みましたし、ドラマも観ました。ドラマは原作を活かしつつも、リアリティのある内容だったのですが、今回の映画はキャラクター性を重視したので、より原作に近いかもしれません。

――栁さんが演じるのは格安シェアハウス「方舟」の住人たちのリーダー的存在であるキリシマです。初めて脚本を読んだときは、どんな印象を受けましたか。

栁 シンプルに気持ち悪い存在だなと。ここまでイカレたキャラクターばかりの映画も珍しいですが、中でもキリシマは得体が知れなくて特殊な存在です。

――不気味さを醸し出すために意識したことはありますか。

栁 発するセリフ自体が気持ち悪いので、あえて意識しなかったです。自然な流れで演技をすれば、自然とキリシマらしい表情や口調になるんですよね。ただ最後で明かされる正体を、どこまで見せるかが難しかったです。

――事前に児玉和土監督から、「こういうキャラクターにしてほしい」というリクエストはあったのでしょうか。

栁 宗教感強めのキャラクターでいてほしいという指示がありました。あと、あんまり動かないで欲しいと。どこか人間離れした口調だったり、不気味さだったりを出すには、変に動いてしまうとキリシマ感が弱くなる。静と動で言ったら“静”のほうを意識して、お芝居をして欲しいと言われました。

――キリシマは大量の虫が入った瓶を持ち歩いていますが、中身は何だったんですか?

栁 マダガスカルゴキブリです。爬虫類などのエサ用として売られているもので、かなり高価らしいです。日常生活で触れと言われたら嫌ですが、キリシマになり切れば意外と平気でした(笑)。

――シェアハウスは独特な空間でしたが、どういう場所だったんですか。

栁 今は使われていない修道院なんですが、いい感じに不気味な雰囲気で、素晴らしいロケーションでした。

――狭い空間でのシーンが多いので、撮影も大変だったのではないでしょうか。

栁 アクションシーンもあったから余計に大変でしたし、時間もかかりました。僕に関して言うと、アクションはクライマックスだけでしたが、「こいつには敵わない」という圧倒的な強さを出すためには、どうしたらいいのか。そこは児玉監督とお話ししながら、自分からも提案して、あまり力が入っていないようなアクションを目指しました。

――児玉監督は数多くのホラー作品を手掛けていますが、演出の印象はいかがでしたか。

栁 とても不思議な、ふわっとした雰囲気の方で、あまり俳優に多くを言うタイプではないんです。「うーん……」と考えている様子で撮影が始まるので、最初は不安もあったんですが(笑)。OKのときは迷わずOKを出すし、納得がいかないときはハッキリと言うし。そのときも俳優にというよりは、技術さんたちに言うほうが多かったですね。

――様々な仕掛けを凝らして、緻密な計算の上で成り立っている作品ですから、技術さんとの連携も大切ですよね。

栁 驚かせたり、怖がらせたりが大切な作品だから、タイミングや技術的なものが重要で。完成した画は、しっかりと児玉監督の頭の中にあったんだと思います。

――完成した映画を観た印象はいかがでしたか。

栁 僕は驚かせる側、怖がらせる側なので、客観的には観られなかったです。ここでキリシマが来るというのを知っちゃっていますからね。何も知らないフラットな状態で観たかったなと。学生時代って休みの日に友達と怖いもの見たさで、前知識もなくホラー映画を観に行くことがあるじゃないですか。そういう感覚で観てもらえると、怖いだけじゃなくストーリー性もあるので、楽しんでいただける作品になっています。