自然と変化するのが成長していくコンテンツの醍醐味

――寧々が世界で活躍するミュージカル俳優を目指す過程で壁にぶつかったように、歌の面でMachicoさん自身、壁にぶつかった経験はありますか。

Machico あります。デビュー直後、当時のマネージャーさんが「Machicoの歌はピッチやリズムが取れているからカラオケで歌う分には上手い。でも抑揚がないから、プロの歌手となったときに誰の心を動かせるの?」としっかり言ってくださったんです。それまで自分はプロの世界を知らなかったですし、いつもみんなに褒めてもらえるから歌が得意という無敵感がありました。だから悔しくて、悔しくて……。でも「抑揚って何?」という感じで最初はピンとこなかったんですよね。

――どのように、その壁を乗り越えたのでしょうか。

Machico 私はアーティストデビューが先で、その1年後に声優デビューするんですが、その期間は地元で暮らしていて。月に一回、お仕事の稼働に合わせて上京していたんですが、そのときに事務所のスタジオを6時間くらい押さえて、ひたすら個人練習をしていました。まだ持ち歌が1、2曲しかなかったので、それ以外にも自分が歌いたい曲を黙々と一人で歌い続けて、自分のどこが悪いのかを徹底的に探りました。上京後も2年ぐらいは、そういう個人練習を続けて。ずっとピッチ主義だったんですが、その過程でピッチを外した美学もあることに気づきました。

――どういう個人練習をしていたんですか。

Machico 振りのある曲は踊りながら歌ったり、いろんな発声方法を試しながら抑揚を探してみたり。それを動画ではなくボイスレコーダーで音声だけ録って、声がブレているところがあったら強化して、を繰り返していました。そうやって自分を見つめる時間がたくさんあったから自然と壁を乗り越えられましたし、今の自分に繋がっています。プロセカ以外の作品でも歌にリンクしたキャラクターを担当させていただくことが多いんですが、そのときに、すぐに答えを求めないのも当時の経験が影響しているんです。

――どういうことでしょうか?

Machico 相手の意向を聞くだけではなく、自分の中で考えられるようになったというか。「自分はこうしたほうがいいと思うんですが、どうでしょうか?」とディスカッションできるマインドも作ることができたんですよね。思い返せば放任だったなと思うんですが、逆に手取り足取り教えてもらっていたら、自分の中に枠を作っちゃっていただろうし、おそらく今の自分にはなっていないので感謝しています。もしかしたら当時のマネージャーさんは、私が縛り付けられるのが苦手で、自分なりに学んだほうがいいタイプだと見抜いていたのかもしれません。

――寧々の歌い方についてはいかがでしたか。

Machico 寧々を歌で表現するのは難しかったです。ボカロ楽曲はキーが高いので、私の地が出やすいんですね。寧々を担当して1年以上は試行錯誤を繰り返しながらやっていって、この1、2年でようやく寧々の歌い方が固まってきました。だから初期の楽曲を聴くと、自分的にはムラがあるなと思います。ただ、そうした変遷がストーリーの進行とリンクしているんですよね。この段階だと寧々は自分を開放できていないから、不器用さがあるみたいな、後に明らかになっていくストーリーに救われている部分もあるんですが、初期の歌を今の私が歌ったら違う表現になりますし、当時の歌声は出せないはずです。もう4年、寧々を向き合っ  ていますが、そこが成長していくコンテンツの醍醐味ですね。

※「VOCALOID(ボーカロイド)」および「ボカロ」はヤマハ株式会社の登録商標です。

Information

『劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク』
絶賛公開中!

声の出演:初音ミク/ORIGINAL CV BY藤田咲、鏡音リン・鏡音レン/ORIGINAL CV BY下田麻美、巡音ルカ/ORIGINAL CV BY浅川悠、MEIKO/ORIGINAL CV BY拝郷メイコ、KAITO/ORIGINAL CV BY風雅なおと、星乃一歌/野口瑠璃子、天馬咲希/礒部花凜、望月穂波/上田麗奈、日野森志歩/中島由貴、花里みのり/小倉唯、桐谷遥/吉岡茉祐、桃井愛莉/降幡愛、日野森雫/本泉莉奈、小豆沢こはね/秋奈、白石杏/鷲見友美ジェナ、東雲彰人/今井文也、青柳冬弥/伊東健人、天馬司/廣瀬大介、鳳えむ/木野日菜、草薙寧々/Machico、神代類/土岐隼一、宵崎奏/楠木ともり、朝比奈まふゆ/田辺留依、東雲絵名/鈴木みのり、暁山瑞希/佐藤日向

原作:セガ / Colorful Palette / クリプトン・フューチャー・メディア
監督:畑博之
脚本:米内山陽子
アニメーション制作:P.A.WORKS
配給:松竹
製作幹事:サイバーエージェント

CDショップで聴いたことのないミクの歌を耳にした星乃一歌。彼女はモニターに、見たことのない姿の“初音ミク”を見つけ、「ミク!?」と思わず声に出す。その声に驚いたミクは、一歌と目が合ったものの、ほどなくして消えてしまう。後日、路上ライブを終えた一歌のスマホに、以前見かけたミクが姿を現す。寂しそうに俯くミクに、一歌はそっと話を聞いてみると、“想いの持ち主”たちに歌を届けたいのだが、いくら歌っても、その歌が届かないという。ライブで多くの人の心に歌を届ける一歌の姿を見て、彼女のことを知れば自分も“想いの持ち主”たちに歌を届けることが出来るのではと考えたミクは、一歌のもとにやってきたのだった。ミクの願いに「私でよければ」と微笑みながら一歌は答え、初音ミクと少年少女たちの新たな物語が始まる。

公式サイト
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Machico

3月25日生まれ。広島県呉市出身。主な出演作品は『ウマ娘 プリティーダービー』トウカイテイオー役、『アイドルマスター ミリオンライブ!』伊吹翼役など。アーティストとして『この素晴らしい世界に祝福を!』や『プリキュア』シリーズの主題歌を担当。

PHOTOGRAPHER:TOMO TAMURA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI