物語の全容が見えたときに感情があふれるぐらい心に沁みた

――映画『美晴に傘を』の美晴役はオーディションで決まったそうですね。

日髙麻鈴(以下、日髙) オーディションを受けるにあたって、いろいろな資料や映画を見させていただいて、そこから自分なりに情報収集をしていったんですが、一口に自閉症、聴覚過敏と言っても個性があって。それぞれの色、特徴、癖などがあるので、何かを模倣するようなことはあんまり考えずに、自分の中で美晴像を作り上げてオーディションに挑みました。それを認めていただけたのか、合格したと聞いたときは、ただただうれしかったです。

――初めて脚本を読んだときの印象はいかがでしたか。

日髙 オーディションの段階ではどういうお話か分からなかったのでドキドキしていたんですが、美晴役が決まってから脚本をいただいて、物語の全容が見えたときに感情があふれるぐらい心に沁みました。とても難しい役柄ではあったんですが、この作品の一部に自分がなれることもうれしかったですし、不安もありながら楽しもうという二つの気持ちが混在した状態で撮影に臨みました。

――美晴を演じる上で、渋谷監督とはどんなお話をしましたか。

日髙 美晴の心情についてお話することはあったんですが、具体的な役作りについては自由にやらせていただいたので、楽しみながら美晴を作っていきました。ただ一つ重要なポイントとして監督が仰っていたのは、美晴は聞いた音を擬音語に変える能力があって、その擬音語を大切にしてほしいということでした。

――もともと美晴の話す擬音語は脚本に書いてあったんですか。

日髙 書いてありました。きっと美晴の中でこういうことがあって、こういうものを見て、こういうふうに思って、こういう擬音語にしたんだろうなと想像が膨らんで、美晴のいろんな一面が見えてきました。

――亡き父が生前病床で書いた絵本『美晴に傘を』は、どの段階で渡されたのでしょう。

日髙 クランクインの前に、数日間のリハーサル期間があったんですが、その初期段階では絵本が完成していなくて。リハーサルの間にだんだん出来上がっていくのが面白くて、すごく思い出に残っています。

――リハーサルはどんな内容だったんですか。

日髙 祖父の善次(升 毅)、母親の透子(田中美里)、妹の凛(宮本凜音)の4人で過ごすシーンや、家族との会話がメインのリハーサルだったんですが、始まる前にみんなで輪になってゲームをするなど、監督がワークショップみたいな時間を設けてくださったんです。それをやることによって家族の絆が深まりましたし、監督の演出方法も知ることができて、役を演じる上で大きな助けになりました。

――升さんと田中さんの印象はいかがでしたか。

日髙 お二人とも本当に優しくて、いつも温かく見守ってくださる中でお芝居をさせていただきました。撮影期間中、具体的にお芝居の話をすることはほとんどなかったんですが、今まで美晴は周りに支えられて生きてきたという背景があるので、升さんと田中さんはカメラが回っていないときでも美晴に寄り添って接してくださりました。とても温かい空気を作ってくださったので、美晴に入り込みやすくなりましたし、大先輩のお二人の存在があってこその美晴でした。