町特有の音が役を演じる上でインスピレーションになった

――美晴に共感する部分はありましたか。

日髙 美晴の性格と自分の性格は、とても似通っているなと思う部分が多くて。美晴はつらいことがあると、夢の世界に逃げ込みます。その夢の世界には傘売りがいて、傘をもらうことで自分の心身を守るというのが美晴の拠り所です。私自身、曲を書いたり、物語を作ったりすることが心の拠り所で。何かつらいことがあったら、その感情を創作に向けるということを普段からしていたので、ことさら美晴の気持ちを難しく考えなくても共感できました。

――夢の中で、傘で作った小屋が出てきます。

日髙 たくさんの赤い傘を、スタンドなどを使ってドーム状にしたもので、あの中に入って外の世界を覗き込むのですが、とてもファンタジックで美晴の心情を表していて、素敵だなと思いました。

――ロケ地の北海道余市町はどんな町でしたか。

日髙 撮影期間は2週間ぐらいだったのですが、もっと滞在したいくらい素敵な町でした。撮影したのは秋頃でしたが、秋の北海道って昼間はポカポカ春みたいに暖かくて、夜はグーンと冷え込んで、鋭い風が頬を切るように冷たいんです。自然豊かで、海も山も近くにあって、凝り固まった心がほぐされるような環境で撮影できました。所々で地元の方も出演されているのですが、町の魅力もこの映画から伝わるはずです。

――町を散策する時間はありましたか。

日髙 ありました。強く記憶に残っているのは名産のプルーンで、普通に道路脇の屋台に売っているんです。そこで生のプルーンを買ったのですが、とても美味しくて、毎日のようにバクバクと食べていました。差し入れでもプルーンやメロンをいただいて、撮影の合間のご褒美になっていました。

――余市町という空間が演技に影響を与えた部分もありますか。

日髙 美晴は音に敏感なのですが、波の音や山から聞こえる音など、余市町特有の音が役を演じる上でインスピレーションになりました。

――改めて映画の見どころをお聞かせください。

日髙 ロケーションも素晴らしいですし、映像も絵本みたいにほんわか温かくて、ファンタジーな要素もあって、視覚的にも楽しめますし、この映画のキーポイントは言葉だと思います。登場人物が放つ言葉、その言葉で傷ついたり癒されたりという人間模様が繊細に描かれています。美晴の擬音語、善次の放つ言葉など、どれも魂がこもっていますし、いろんな角度でご覧いただけたら、より楽しめるんじゃないかと思います。