高崎市は撮影に協力的で、伸び伸びやれる環境を整えてもらえた

――高崎市というロケーションが、お芝居に影響を与えたところはありましたか。

祷 シネマテークたかさきやフィルム・コミッションの方々が撮影に協力的で、映画作りをしやすい街でした。特にシネマテークたかさきの方々は差し入れしてくださったり、現場に何度も来てくださったりと、ウェルカムな雰囲気が伝わってくるんですよね。東京からも近いし、いろんなロケ地があって。今まで仕事を通して、いろんなところに行った中でも、こんなに映画作りに協力してもらえる街って珍しいなと。お邪魔しますって気を遣うのではなく、伸び伸びやれる環境を整えてもらえたという印象がありました。

――岡田監督はアニメーション制作を中心とした映像作家で、『恋脳 Experiment』は実写⻑編デビュー作でもあります。撮影スタイルで何か感じた部分はありましたか。

祷 岡田監督は実写が初めてというのもあって、カット割りで苦戦するんじゃないかなと思っていたんです。ところが、どんどん決めていける人で。面白かったのは、亜門くんとのシーンのときと、中島歩さんとのシーンのときでは私の芝居の仕方も違うし、自然と出来上がる空気感も違います。だから亜門くんのところはポップ目なカット割りなのですが、中島さんのところは長回しが多くて。私も中島さんも「こんなことをやってみようよ」とカットがかかるまで永遠に続けるタイプなので、それを岡田監督も面白がって、この空気感を全部使うみたいな。岡田監督自身、こんなに変わるとは思ってなかったと言っていたんですが、役者のタイプや出来上がる空気によって、現場でカット割りも変わるんですよね。

――中島さん演じる⾦⼦と仕草が⼭登りデートをして、山頂で昼食を食べるときに、あるいざこざが起きます。それを長回しで捉えるシーンはコミカルで、アドリブを交えないと出せない空気感なのかなと思いました。

祷 セリフは台本通りなのですが、あれだけ間を取っても、本編で使われるんだという驚きがあって。気張らずにリラックスした空気を中島さんが作ってくれたので、そのまんまの自分で演じられました。

――仕草が美術⼤学に戻って、助⼿を務めているときに、舞台演出家として活躍中の佐伯が母校で3週間の特別授業を⾏う場面。佐伯は講義中、学生に⾒本を⾒せる⼿伝いを仕草に頼み、二人で⾝体での会話をします。自由で生き生きとした舞いでしたが、あの動きは、どのように作り上げたのでしょうか。

祷 コンテンポラリーダンサーの方を招いて、亜門くんと一緒に何度かダンスのワークショップを受けたんです。そこで練習を重ねて、初めは動きのパターンも軽く決めたんですけど、やっぱり決めないほうがいいねとなって。こういう気持ちだったらこんな動きができるよとか、相手がこう来たら、こういう返しができるよとか、ダンサーの方からアイディアをいっぱいもらって。それを基に亜門くんと探り探りで、身体でコミュニケーションを取るみたいなことを、時間をかけてやって、あのシーンになりました。

――祷さん自身、ダンス経験はあったんですか?

祷 なかったです。佐伯はコンテンポラリーダンスをやっていますが、仕草は何もやっていないところから講義のシーンになるので、あまり慣れ過ぎないようにと言われました。だから上手くなくてもいいやと思ってやっていたんですが、すごく楽しくて。あの経験を経て、役者は全身を見られるし、身体は目に入る大きい情報だから、体を鍛えるとか、ダンスをやるってすごく大事だなと思って、たまにワークショップに行ってます。

――岡田監督に、普段から実写を撮影している監督との違いみたいなことを感じることはありましたか。

祷 アニメーションって自分で脚本を書いて、絵も描いて、カット割りもして、自分一人で完結できる芸術。だからこその面白さもあるけど、自分の考えが絶対になっちゃうから、自分の考え以外の考えと出会えないまま、作品を世に出す怖さもあると岡田監督が言ってて。映画は総合芸術だから、いろんな分野の人たちが集まるし、いろんな人の意見に自分の考えを触れさせたい、そうやってみんなで作品を作りたかったそうなんです。岡田監督は柔らかい物腰で、「こうしてください」というよりは、「どうですか?」みたいな感じで一緒に考えてくださって。自分の中で「こうしてほしい」というのがあっても、まずは意見を聞いてくださる形だったので新鮮でした。だから現場の空気も穏やかで、やりやすい空間でした。

――絵コンテはあったんですか。

祷 作ったみたいなんですが、渡されることはなくて。「あんまり絵コンテにこだわらないでいいや」となったそうです。