大学でいろんな人と出会えて、いろんなものと触れ合える期間があったのは良かった

――キャリアについてお伺いします。ご両親は祷さんが生まれる前から大阪のアメ村で洋品店を営んでいるそうですが、そういう環境が今の仕事に就く大きな要素になっていますか。

祷 あると思います。割と都会だったので、東京に出てきたときも、それほど違和感がなくて。都会で一人暮らしをするのって大きく環境が変わるので、度胸がいることだと思うんです。でもアメ村で育ったから肝が据わっていられたというか。自分の勇気とか、度胸みたいなものを作っているのは、アメ村でカルチャーとか、いろんなことに挑戦している人たちに囲まれていたからで。父親も自分で服を作っていたし、そういう影響を受けました。だから物作りをするというこの仕事も、特殊な仕事に飛び込んだというよりは、身近な感じがありました。

――音楽も身近だったそうですね。

祷 父親もDJをやっていたみたいですし、ライブもちっちゃい頃から連れて行かれていたので、音楽に囲まれていました。赤犬のライブなんて1歳ぐらいのときから連れて行かれていたみたいです(笑)。年齢に応じて音楽の好みは変化しているんですが、オルタナティブな音楽が好きなので、今も影響を受けているのかなと思います。

――祷さんが俳優デビューした映画『堀川中立売』(09)を撮った柴田剛監督とは、どのような繋がりがあったんですか。

祷 『堀川中立売』の前に柴田監督が撮った『青空ポンチ』(08)という映画に、私の父親が衣装提供をしていたんです。それで家族で『青空ポンチ』を観に行ったら、めっちゃ面白くて。何も知らないくせに、柴田監督に向かって、「映画っていいな。キララも出たい」と言って(笑)。そしたら「じゃあ役を作るよ」という口約束が、本当に実現してというのが入口でした。

――どうして俳優を続けることになったんですか。

祷 俳優でやっていくという気持ちはなかったんですが、父親の服屋のメアドにオファーの連絡が来て、家族会議をして出演するかどうか決めるみたいな。もちろん自分にやりたい気持ちがあったからやっていたんですが、家族から「これはやったら?」とか、「これは難しいんじゃない?」とか考えてもらって。普通の学校生活を送っていたので、なるべく部活を休まずに、土日でできる仕事を選んで、手探りでやっていました。

――早稲田大学に進学しますが、そのときには俳優でやっていく気持ちはあったのでしょうか。

祷 ありました。早稲田大学に行くきっかけも、家族からは関西の大学に進学してほしいと言われたんですが、「私はこの仕事をやりたいから大学にも行きたくない」となって、すごく揉めて。家族は早くから大学に行ってほしいと希望していて、折衷案で「大学に行くんだったら東京に行ってもいいよ」と言われたんです。それで受験勉強をするうちに、早稲田大学だったらときめくなと思って。東京に行くための大学だったけど、早稲田大学だったら勉強も頑張れると思って、受験に専念しました。

――大学に行って良かったことは?

祷 たくさん友達ができたことですね。いきなり高校卒業後に社会に出て、仕事だけとなったら、いろんな人たちと知り合う場が限られるじゃないですか。この仕事も人との出会いは多いけど特殊ですしね。大学は高校よりも、自分と近くない、いろんな考えを持った人たちとオープンな環境で出会えるから、そういうところに行ったことで、「仕事仕事!」ってならないで済みました。あと仕事一本ってなると頑張れる分、背負い込んでしまったり、考え方が狭くなったりしますしね。この仕事はいろんなことをやっていたほうが絶対にいいので、大学でいろんな人と出会えて、いろんなものと触れ合える期間があったのは良かったです。

――最後に改めて『恋脳 Experiment』の見どころをお聞かせください。

祷 “「恋を、しなければ。」の呪いを解き放て”というキャッチフレーズを掲げていますが、「恋愛しないと幸せになれない」とか、「恋愛すると綺麗になれる」とか。先ほどの話で言うと、「大学に行かないといけない」とか、人は歳を重ねても、そういう固定観念にとらわれています。そういう言葉を投げかける人も、良かれと思って言っているのが分かるから、そこから逃れられないみたいな、すごく身近なテーマだなと思っていて。この作品は恋愛賛歌でもないし、恋愛を批判したい訳でもなくて、そういう固定観念に縛られていることに気づく主人公の成長が描かれています。映画って自分の人生や日常からちょっと離れて、新しい考えとか、いろんな生き方をしている人に出会えるもの。そういう意味でも『恋脳 Experiment』は、自分が知らないうちに縛られていた固定観念に目を向けられるきっかけになると思います。そういうことに気づくことが大事だし、そこからすぐに逃れられなくても、こういうことにとらわれている自分というものを分かっているだけで、一歩外に踏み出してチャレンジできたり、日常が楽しくなったり、自由になれるっていうのはすごくポジティブな変化だと思うので、幅広い世代の方に観ていただきたいです。

Information

『恋脳 Experiment』
好評公開中!

祷 キララ 平井亜⾨ 中島 歩
河井⻘葉 ⼤⽉美⾥果 佐藤和太 ⼆⾒ 悠 中⼭雄⽃ ⾨⽥宗⼤ 関⾕ 翼
⼩林リュージュ ⼩野まりえ 川郷司駿平 佐藤 京 中島多羅

監督・脚本:岡⽥詩歌

幼い頃からおままごとやお姫様ごっこをして遊ぶのが好きだった山田仕草(やまだしぐさ)。中学生になり、女子校に通う仕草(大月美里果)は、塾からの帰り道、同じ塾に通う晴人と女子がケンカをしているのを見かける。ひとりになった晴人を、仕草は追いかけて声をかける。「もしよかったら私と付き合ってください!」。晴人は、名前も知らない仕草からの突然の告白に驚きながらも二つ返事でOKする。しかし、その後、仕草には思いがけない展開が待ち受けていた。数年後、美大生となった仕草(祷キララ)は、就職活動中。同級生の恋人・佐伯翔太(平井亜門)は、コンテンポラリーダンスに情熱を注いでいる。佐伯は自分が取り組んでいる卒業制作について熱く語り、仕草の話に耳を傾けないばかりか就活をする同級生たちをこき下ろす。後日、自分が卒業制作の準備がうまく行かない原因は恋愛をしているせいだと思い、仕草に一方的に別れを告げる。大学を卒業後、デザイン事務所に就職した仕草は、憧れのデザイナー・西川(小林リュージュ)の下で働き始める。西川はセクハラ、パワハラが常習化していた。休日、仕草は西川の自宅で開催されるホームパーティに呼ばれるが、そこでもこきつかわれる。そんな中、ホームパーティに参加していた西川の元同僚・金子エイジ(中島歩)は、仕草の姿を見かねて手伝ってくれる。仕草はついに“理想的な男性”に出会えたかに見えたのだが……。

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祷 キララ

2000年3⽉30⽇⽣まれ。⼤阪府出⾝。2015年公開の映画『Dressing UP』(安川有果監督)で映画初主演を務め、「第8回シネアスト·オーガニゼーション⼤阪」CO2新⼈賞、「第14回 TAMA NEW WAVE」ベスト⼥優賞などを受賞。『ハッピーアワー』(15/濱⼝⻯介監督)、『サマーフィルムにのって』(21/松本壮史監督)、『忌怪島/きかいじま』(23/清⽔崇監督)、『HAPPYEND』(24/空⾳央監督)など話題作に出演。テレビドラマは「シロでもクロでもない世界で、パンダは笑う。」(20/ytv)、「瑠璃も波瑠も照らせば光る」(22/CX)、「孤独のグルメ season10」(22/TX)や、AppleTV +配信中のドラマ『PACHINKO2』にも出演。

PHOTOGRAPHER:TAISHI OGIWARA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI