この世界に入っていなかったら、特にやりたいことがなかった
――初めて原作の『ネムルバカ』を読んだときの印象はいかがでしたか。
久保史緒里(以下、久保) あまりにも好きになり過ぎてしまって……それぐらい衝撃がすごかったんです。私は中学生でこの業界に入っているので、入巣とルカのような日々に憧れを抱きましたし、どちらの葛藤にも強く共感できたので、これほど愛した作品に出演できるのはうれしいことだなと。もともと阪元裕吾監督の『ベイビーわるきゅーれ』シリーズは大好きで観ていて、いつかご一緒したいと思っていたので、一緒に『ネムルバカ』の世界観を共有できるのが楽しみでした。
――アクションを得意とされている阪元監督が、入巣とルカのモラトリアムを描いた『ネムルバカ』を撮ることに意外性はなかったですか。
久保 確かに阪元監督の作品はアクションで語られることが多いですが、個人的には『ベイビーわるきゅーれ』の主人公二人の日常生活が大好きで。『ネムルバカ』も入巣とルカの何気ない会話が刺さったので、すごく撮影が楽しみでした。
――入巣とルカ、それぞれ共感したところをお聞かせください。
久保 二人とも表面的な見え方は両極端ですが実は似ていて、自分に自信がないんですよね。私が演じた入巣は「自分には何もない」「私は何がしたいんだろう」と言いながら、どちらかというと楽観的に生きている。そこに共感しました。
――早くから芸能活動を行っている久保さんに、そんな時期はありましたか?
久保 全然ありました。私は乃木坂46にオーディションで入ったので、落ちていたらやることがなかったんですよ。この世界に入っていなかったら、進学校に行こうと思って、受験勉強はしていたけど、とりあえず勉強しとこうみたいな気持ちで、特にやりたいことがなかったんですよね。入巣と同じぐらいの年齢まで、芸能活動をせずに地元で過ごしていたら、おそらく何がしたいんだろうと思った世界線です。逆にルカの世界線はグループで活動している今の自分に近しくて、夢があって追いかけているけど、絶対に越えられない壁があって。それをピョンッて乗り越える人たちを近くで何人も見てきたという環境はルカと同じです。
――久保さん自身、入巣とルカのような後輩・先輩関係を経験したことはありますか。
久保 こういう関係性の先輩はいなかったですね。後輩が接しやすいように、先輩のほうが気にかけてくれるという世界線が乃木坂46なんですよ。入巣とルカの世界線は、お互い気にかけているけど、お互いが気を使わないからこその気楽さで。そもそも私は気にしいなので、そういう意味の憧れもありました。
――役作りで意識したことはありますか?
久保 役作りとは違うかもしれませんが、『ネムルバカ』の撮影期間は自分も入巣と同じようにご飯を食べたまま寝ちゃうとか、たるんだ生活をして(笑)。自然と「私って何がしたいんだろうな」という感情になるようにしました。ずっと、それとは真逆の生活をしていたから、駄サイクル(※ルカの造語。ぐるぐる廻り続けるだけで一歩も前進しない駄目なサイクルのこと)に陥る感覚にずっといたくて。しっかりと台本を覚えながらも、「またやっちゃったな……」と朝起きる入巣の気持ちを味わっていました。
――駄サイクルの効果はいかがでしたか。
久保 生活を変えるとマインドが変わるんですよ。私はマインドと生活が直結する人間なので、気分が落ちているときって部屋が散らかりやすい自分の性質を分かっていたんです。だから、あえて自堕落な生活をしてみると、音楽に打ち込むルカに対する、「先輩はすごいですよね。いいですよね」っていう感情がどんどん増していきました。
――二人が生活する部屋にいると自堕落になるのは分かります。
久保 そうなんですよ!あの生活感がいいんですよね。