マキタスポーツが考えるこだわりの食人生

――著書の中で、最初はファミレスみたいな構えの芸人さんになりたかったけど、ビートたけしさんとの出会いに衝撃を受けたとあります。

マキタスポーツ たけしさんになれると思っていたんですけどね、全くなれないってことに早々に気がついたつもりです。ファミレスは、誰でも迎え入れてくれて、平均点以上のちゃんとした味やしつらえがある。だから、そのぐらいのクオリティの人懐っこい芸人でいたいというイメージがあったんですけど、そんな感じには全くならなかったんですよね。たけしさんにもなれないし、ファミレス的な明るいタイプの芸人にもなれませんでした。

――でも、ミュージシャンでもあり俳優さんでもあり、活動も多岐に渡りますよね。そのうえ執筆活動もされていてファミレス的だなと思います。

マキタスポーツ いや、メニューが多いだけです(笑)。僕は、興味のあることしか仕事にはしてないんですよ。興味のあったことが結果的に仕事に結びついたというか、是が非でも結びつけないといられなかったっていうか。だから、芸能の道ではマルチな活動してるように見えるんですけれど、それ以外のことはできません。プライベートの私はマジでポンコツです。子どもにも、パパってなかなかだよねって言われています(笑)。やれないことが多いんです。例えば、テレビとかAV機器とか、メカのことは何にもわかんないですね、興味もないですし。生活に必要な事務能力もないです。この前もライブのお礼状の出し方がマナーに沿っていないと妻に叱られました(笑)。

――本の中では、志村けんさんの混ぜない水割りの飲み方をハイボールで続けているとのことですが、この背景には何か特別な出来事があったのでしょうか?

マキタスポーツ お酒をずっと飲み続けることによって、シンプルな方法でも深い味わいの飲み方にたどり着いている人、それが志村けんさんでした。

以前、志村さんとコントをしたとき、貴重なダメ出しをいただいたんですよ。「お前はリハがよかったからって本番で動き方を決めちゃったろ? だからつまらなくなったんだよ」って。で、そんなことを打ち上げの席でお酒を注ぎながら聞いていた。そしたら「おい、混ぜないでくれ」と言うんです。あの方はよく焼酎の水割りを飲んでいたんですが、それを混ぜるなと。混ぜないでゆっくり飲んでると、味がだんだんと変化するから、それが美味いんだよって。

僕はそのとき、芸に対するダメ出しと水割りを混ぜないことが、一致したように聞こえたんですよ。酒もテレビコントもライブであって、変化に敏感であれと。

それは僕にとって必然的なタイミングだった。お酒を飲んでいると、いつかそういう啓示のようなタイミングが来るから、お酒が好きな人は飲み続けてくださいって感じです。

――今の若い人たちはビールをあまり好まず、自分の好きなお酒を飲むというスタンスが多いといわれています。若い人に対して、楽しいお酒の飲み方についてアドバイスをいただけますか。

マキタスポーツ コミュニケーション能力の高い人は、みんなとワイワイ言いながら飲めばいいと思います。僕にとって普段のお酒は、1日にピリオドを打つような儀式として行っていることで、味云々よりも、酔っ払えばいいという感じでやってるんですよね。だから、あまり褒められたものではないです。だって、すきっ腹で飲むんですから(笑)。料理と合わせるのではなくて、すきっ腹で飲んで、酔いも体に回ってくる。それで、自分の店が閉まるんですよ。美味しくいただくお酒は、別でとってあるんですよ。それは、もうちょっと特別な日に。ストレートやロックで、なめるようにいただいてます。みんなでワイワイ飲むときと、個人で飲むときと、チャンネルを変えてます。ただ、美味しいものとお酒がセットにして静かに淡々とやってる人とかもいると思うので、それに関しては僕のやってる「ロビンソン酒場漂流記」(BS日テレ)を見てください(笑)。若いうちは、酒の飲み方なんかわからないですよ。ワイワイ言いながら飲んでいれば、勝手にそのうち開くものですよ。

――マキタスポーツさんは、モスバーガーを1回やめて、もう1度上京した、いわば再チャレンジみたいな形で芸能界に入られました。ここで、道に迷って新しいことにチャレンジするというのは大変なことですよね。

マキタスポーツ 行動をしたからこそ、今があるというか。当たり前のことですが、いい結果も悪い結果も、行動することで得られること。行動しなかったら、いいことも悪いことも起こらないし。僕は行動力があるタイプじゃなかったから、デビューも遅れました。行動して、子どもを産むって決めたから子どもを授かり、そして家庭がある。すべて行動した結果なんです。だから、現状を変えたいなら、行動することです。もう1つ言うなら、ストレスをかけることですね。

――あえてストレスをかけると。

マキタスポーツ 絶対に、ストレスフリーはないですよ。得られる糧には、必ずストレスがついて回るんです。家の中で突っ伏していることの方がいいときもあると思うんですよ、気分的には。さんさんと太陽が降りそそぐ青空の下に行くのが面倒くさいと思うときもあると思いますが、それでも人間活動するなら、あえて外に出て、自分にそういうストレスをかける。そしたら、心が動くことが起こると思うんですよ。今だと花粉は飛んでるし、予想外のことが起こるかもしれない。僕は今、東京と地方の村での二拠点生活をしていますが、たまたま村に行ったときに、家の前で鹿が罠にかかっていたんですよ。僕はそういうことを体験したことないし、ただそれを眺めていたんですけど、結果的に手伝うことになって。やったことのない鹿の解体を手伝ったんですよ。もう、夢中でやるしかなかったですね。やっぱりすごい疲れましたよ。だけど、特別な体験ができたし、それもいろんなネタを得たことになるんですよね。だからストレスは怖がっちゃダメですよ。いいことも悪いことも、行動でしか生まれない。その場合、ストレスは避けられない。怖がらないで行動してください。

Information

『グルメ外道』(新潮新書)
好評発売中!

公式サイト

マキタスポーツ

1970(昭和45)年山梨県生まれ。芸人、ミュージシャン、俳優、文筆家など、多彩かつ旺盛に活動中。俳優として、映画『苦役列車』で第55回ブルーリボン賞新人賞などを受賞。著書に『決定版 一億総ツッコミ時代』『すべてのJ-POPはパクリである』『越境芸人』『雌伏三十年』などがある。

PHOTOGRAPHER:TOMO TAMURA,INTERVIEWER:DAISUKE MATSUBARA